「JKビジネスで女子高生を買うことは人身取引です。子どもへの性暴力は犯罪です」という啓発サイトを作って、大人たちにこそリーフレットを配るべきだ。
しかし今回施行されたJKビジネス規制条例でも、買う側への規制や少女へのケア、被害に遭った時にどうすればよいか、また加害者にならないための教育についての視点は欠けており、営業を届出制にしたり、少女の補導に力を入れ、警察が従業員名簿をチェックするなど、女性に対する取り締まりばかり強化されている。
「リアルJK」でなければ解決か?
そんな中、警視庁は「STOP‼ リアルJK」という、ショッキングなコピーのパンフレットを製作した。JKビジネスの問題の本質は「本物の女子高生が被害に遭っているかどうか」ではないのに、これでは「リアルJK」でなければ18歳未満でも問題ない、と堂々と言っているようなものだ。
問題の本質は、国連やアメリカ国務省が日本の人身取引に関して報告書で指摘するように、貧困や虐待などで孤立したり騙されたりした少女たちが、手を差し伸べるふりをした大人によって取り込まれ、被害に遭う搾取や暴力の構造があることや、女子高生を「JK」という記号で性的に価値の高いものとしてブランド化し、商品化し消費する社会そのものにある。そのことに目を向けなければ現状は変わらない。
私はこれまで、JKビジネスに取り込まれた中高生120人以上と関わり、支援してきた。自著『女子高生の裏社会』(14年、光文社)で、JKビジネスの実態をまとめることもした。国連やアメリカ国務省の調査に当事者たちと共に協力し、15年には東京都の青少年問題協議会委員になり、都の子ども支援に関する方針をまとめた「東京都子供・若者計画」にJKビジネスの危険啓発や対策について、意見を入れることができた。国会議員などとの意見交換や情報交換も行い、17年になってようやく自民党も「女性活躍・子育て・幼児教育プロジェクトチーム」などの勉強会に呼んでくれて、条例制定まで来たと思っていた。
しかし条例の検討会には、中高生に現場で関わっている支援団体のメンバーは入っていない。そのせいか、取り込む側の手口や買う側への視点、被害児童へのケアの視点が不足し、子どもの取り締まりばかりが強まるような条例になっていることにがっかりしている。
また、内閣府と警察庁は17年7月を青少年の非行・被害防止全国強調月間とし、こんなポスターを製作した(http://www8.cao.go.jp/youth/ikusei/h29hikokyo.html)。ファッションモデル、タレントの岡田結実さんがにっこり笑いながらこちらを向き、真ん中に「#はしゃぎ過ぎダメ」という啓発コピーが大きく入っている。さらに「危険はあなたの身近なところに潜んでいます!!」「#出会い系 #JKビジネス #援助交際 #ポルノ #ストーカー #ドラック #お酒 タバコ #いじめ #夜遊び #万引き #振り込め詐欺 #まず相談」と書いてある。
「なんのポスターだよ?」と思った。清楚で若い女性モデルを使って目を引かせ、「ダメ」を言わせていることがまずひどい。女性の商品化を国や警察が率先して行っているようなものだ。
それに子どもたちが性犯罪被害に遭うのは、決して「はしゃぎ過ぎている」からだけではない。「ダメ」は加害者に対して言うべきだ。買春容疑で逮捕・連行されるおじさんや男子大学生の姿をポスターにしたら、効果があるはずだ。ドラックや酒・タバコへの依存、万引き、詐欺の手伝い、夜遊びと呼ばれるような非行や深夜徘徊についても、貧困や虐待や孤立や不安が背景にあることがほとんどだ。いじめの多くも「はしゃぎ過ぎ」が原因ではないのに、どうしてこんな決めつけ方をするのだろう? 青少年の自己責任ということにしたいのか?
「#まず相談」とあるが、こんな発信をしておいて「相談したい」と思われると本気で思っているのだろうか。
JKビジネスが「日本における人身取引」と、世界から指摘されるのはなぜなのか。搾取の構造や暴力には目を向けることなく、子どもに責任を押し付ける大人たちによって物ごとが決められ、処理され、切り捨てられていく現実に絶望しそうになる。こうして、いちいち説明を繰り返さなければならないことにも疲れてくる。
それでも声を上げ続けなければ、現状は悪化するばかりである。読者のみなさんも一緒に考え続けて、声を上げてほしい。それが、子どもの性の商品化を許さない社会をつくるために必要なことなのだ。