公的機関で唯一、積極的に困っている子どもを発見し、つながる活動をしているのも警察だが、それは「補導」という形になり、補導された子どもは生活態度を注意されたり、親や学校に連絡されたりし、家に連れ戻される。補導回数が重なると、犯罪を起こす可能性が高い「虞犯(ぐはん)少年」として鑑別所や少年院に送られることもある。
だから私は中高時代、警察は「見掛けたら逃げるものだ」と思っていた。
非行や家出に関わる子どもたちを「困った子」として、指導や矯正の対象とするのではなく、「困っている子」として捉え、家庭などの背景への介入や、福祉、医療、教育的なケアに子どもをつなげる「ケア付き補導」が必要だと思う。
会いに行かなければ出会えない
日々、私たちが関わっている中高生について、「そういう子どもたちは相談窓口には来ない」という声を支援の現場でよく聞く。家庭や学校などで傷ついてきた子どもたちが、自ら相談機関を調べて、面談の予約を取り、交通費と時間を掛けて相談に行くというのは現実的ではない。あきらめ感が強かったり、自暴自棄になったりしている子どもたちの多くは、「大人にあきらめられた」と感じる経験をしていたり、自己責任論の中で「自分が悪い」と思い込み、声を上げられずにいたりすることもある。
私たちはこれまで、夜の街で家に帰らずにいる青少年を「発見し、出会い、つながること」を目的に、街に出て声を掛けるアウトリーチ活動を行ってきた。中学生の時に声を掛けられたのがきっかけで、その2年後、虐待で家に帰れなくなった時、生活を変えたいと連絡をくれた人もいた。街で出会ったことがきっかけで、ColaboのSNSでの発信を見ながら連絡をしてみるか迷い、1年以上たってから勇気を出して連絡をくれた人もいる。
その時すぐに支援につながらなくても、「こういう人がいるんだ」と知ってもらうため、支援者側から顔を見せることが重要だ。
そして、支援を利用することや、生活を変えることを強要するのではなく、本人が求めるタイミングで、何が必要か、どうしたらいいか、一緒に考えていける大人が増えてほしいと思っている。
そこで私たちは、韓国における実践例を参考に、繁華街に停車させたバスを拠点にしたアウトリーチを今年(2018年)10月から開始する。韓国では首都ソウル市だけでも行政機関を含む7団体ほどが、バスを使ったアウトリーチや食事提供などを行っているという。
このプロジェクトは渋谷区、新宿区と連携し、繁華街にキャンピングカー仕様のマイクロバスを停車させ、バスの周りにテントを置き、イスやテーブルを並べて食事をとったり、話をしたりできるような場を作る。そこを拠点に、スタッフとボランティアがチームに分かれて街中の少女たちに声を掛け、団体の活動やバスで受けられる支援を案内する。使い捨てカイロや電話用プリペイドカード、食料などの物品を提供したり、相談窓口の連絡先が載ったカードやグッズを配布したりする。
ベース基地となるバスでも食事や物品の提供を行い、必要に応じて相談や、行政・病院などへの同行支援、緊急一時保護を行う。
これまでは支援者が街で散開して個々に女の子に声を掛け、連絡先を伝える方法でアウトリーチを行ってきた。が、それだけでは少女たちも警戒したり、突然のことで驚くなどして、直接的な支援につながるケースは少なかった。そこでより効果的な支援、つながるきっかけ作りを行うため、街中に停車させたバスを拠点にすることにしたのだ。
そうすることで、「あそこにバスがあってご飯が食べられるよ」「よかったら少し寄って行かない?」などと案内することができる。少女たちに足を運んでもらいやすくし、団体の雰囲気や活動を見せて、連絡先を伝え、顔の見える間柄になることで、困った時に気軽に連絡してもらえる関係性を作ることができればと考えている。
支援につながらない多くの少女たちが、自分の困りごとに気づいていなかったり、共に状況を整理する大人がそばにいなかったり、「相談する」ということが思い付かなかったり、「逃げるな、甘えるな、お前のせいだ」などと言われたりして育ってきた。「相談する」「支援を利用する」という言葉や行為自体に抵抗感を持つ子も多い。そのため、私たちのアウトリーチでは「相談」を目的としない場を提供することで、そうした少女たちに出会い、利用してもらいやすい雰囲気作りを行いたい。
問題解決を目的とせず「伴走支援」を
私たちは問題解決を目的としない関わりを持つことで、一時的な支援ではなくその子の人生そのもの、その時々の悩みや気持ちの揺れにも寄り添い、日常的な暮らしへの伴走を通して自立を後押ししたいと考えている。
11年のColabo立ち上げからこれまで、Colaboは一般の方々からの寄付や民間レベルの助成金、講演の謝礼といった自主事業費などで運営してきた。が、このほど18年度に厚生労働省が始めた「若年被害女性等支援モデル事業」において東京都の委託先となることが決まった。公的機関につながらない若年女性たちを民間団体が支えていることや、アウトリーチの必要性を国がようやく理解してできたモデル事業だ。それだけに期待はしているが、アウトリーチを強化したところで、そうした若年女性が安心して生活を送れる受け皿が足りない中、女性たちに「出会った責任」をどう取るのか。結局は民間に「自助努力」を求め、押し付けるような形にならないかが気掛かりだ。
現状では私たちが出会う少女たちは、家出や性売買や犯罪に関わるなどした「非行歴」のある子どもとして捉えられている。その背景に虐待や生活困窮などがあって家にいられなかったとしても、受け入れ施設を探すには大変困難な状況がある。また、児童相談所の一時保護所や婦人相談所の女性シェルターなど、公的機関の保護の在り方は当事者を社会から隔絶させるようなものであり、管理的で窮屈な生活になることから、そうした機関を利用したがらない人が多い。
Colaboでも少女たちの生活を支えるため、24時間見守り体制があり、食事が3食提供できて、中長期的に暮らせる場を作りたいと考えているが、そのためには人件費や家賃などの資金が必要になる。
児童相談所などから子どもを預かるためにも、見守り体制は必要であり、少女たちが安心して過ごせる選択肢を増やすために「自立援助ホーム」を開設したいと考えている。しかし施設は不足しているにもかかわらず、東京都は増設しない方針だ。
今年、開設の相談に行った際には、担当者に「現状ではColaboさんが必要だと思われている施設を作るために使える制度はない。現状の支援が不足しているということを我々の立場では言えないし、分からない。Colaboさんは現場で必要性を感じておられるのかもしれないが、調査をしてデータを取るなどしないと必要だとは言えず、予算も確保できない。それには時間が掛かるので、それまでは自分たちで寄付を集めるなどしてやってください。何事も初めは100%、民間の自助努力なんですよ。制度は後から付いてくる。それまで自助努力でお願いします」と言われてしまった。
言っていることは分かるのだが、目の前の子どもたちを放っておけないし、彼女たちを危険に取り込む者たちは、待ってはくれない。これからも支援の不足と充実を訴えつつ、必要とされていることを、市民の方々の理解と協力を得て形にしていきたい。