対して「きみまも」の利用者数は2か月間で延べ1600人で、1日あたり35人ほどが利用した計算になるが、開設時間もバスカフェより長く、成人や男性も含めてこの数である。ものすごく利用者が多いかのように印象操作されているが、居場所がなく街をさまよう少女たちの数に比べると、決して多いとは言えないことが青少年支援に関わっていれば容易に想像できる。
性暴力事件は「避けられない」と開き直る
24年8月、東京都知事は新宿区長と一緒に「トー横」を視察し、都のSNS広報で「行き場のない人が悪意のある大人に騙されないような警告を出す体制が整ってきた。どうしたらいいかわからない子どもたちや女性、若者に、居場所を提供し相談に乗ってあげることが効果に繋がれば」といった内容のコメントを流した。
9月に性暴力事件が明るみに出ると、区長は「困難な課題を抱えている若年層の受け皿での事件は避けられないことだと考えています」「屋外で起きていれば泣き寝入りになった可能性もあります」「純粋に少年少女の立直りを考えているなら居場所事業を攻撃するのは間違っています」とSNSに投稿した。
区長は「事件は避けられない」と堂々と言い放つが、そのようなことが起きないようにするのが支援者の責任ではないか。そうした被害から子どもたちを守る名目で始めたのではなかったのか。あまりにもひどい言い分だ。入り口に「もし施設内で性被害に遭っても、それは避けられないことです」と注意書きをするべきだ。しかも当の区長は、かつてColaboが行ってきた支援への妨害、デマ拡散に乗じてバスカフェと少女たちを追い出しておきながら「居場所事業への攻撃は間違い」とは、どの口がいうのかと思った。
さらには施設があったことで事件が発覚したようにも語っていたが、この事件は施設の体制や利用者への無理解、専門性の欠如などが招いた性暴力事件である。まずは被害者にお詫びし、利用者のケアを徹底し、実態調査と再発防止を都に求めるべき立場にあるのではないか。そして「純粋に少年少女の立直りを考えているなら」というのも気持ち悪い。自分たちは善とか、純粋に青少年支援を考えているとかと言うが、少女たちの人権を尊重し、歌舞伎町を中心とする少女性搾取の構造を変えようという姿勢が全く感じられない。
虐待などを背景に家に帰れなかったり、傷ついている子どもたちを支えたりするには、場所をただ開放すればいいわけではない。これでは「トー横に屋根を付けただけ」なのだ。SNSで「きみまも」を「公営トー横」と表現する人もいて、その通りだなと思った。
本末転倒な東京都の改善策
事件後、都は「きみまも」について一度に利用できる人数を20人ほどに絞ったほか、身分証の提示を求めたり、相談員の他に警察OBを配置したりなど管理体制を見直したと報じられた。しかし実は、事件が明るみに出る少し前には、ホームページ上で利用を登録制にすると発表していた。それによると利用登録には本人が確認できるものや連絡先(携帯電話番号、住所など)の提出が必要とあり、都はそうすることで再発防止ができると説明しようと考えたのだろうが、これでは本末転倒だ。
なぜなら開設当初に匿名利用可としたのは、公的支援に拒否感をおぼえる青少年とつながるためだったからだ。家に帰れず性搾取の被害に遭っている少女たちは、そもそも身分証を持っていないことが多いし、個人情報を知られることに強い警戒心を持っている子がほとんどである。そうした状況を行政もようやく理解したからこそ「名前や住所を明かさなくても気軽に利用できる」とし、Colaboのバスカフェのようにスマホの充電ができたり、軽食が食べられたりする休憩場所を開設したはずではなかったか。
警察に補導されることを恐れて、人目につかないところを転々として生き延びている子どもたちが、警察OBが配置された監視カメラ付きの施設に行くわけがない。それでも利用したい人はいるかもしれないから、やればいいと思う。しかし、これでは決して虐待や性搾取の中にいる少女の支援にはならないことを、理解する必要があるだろう。
怪しい男たちによる「支援団体」が急増
若年女性支援事業は、Colaboのような女性主体の民間支援団体が活動を通して実態を示し、必要性を訴え続けたことで制度化された。22年には日本で初めて――世界的に見ると遅すぎるが、女性支援の根拠法「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)」が成立し、しかしそれに伴いColaboに対するデマ拡散や妨害はこれまでにないほど深刻化した。背後には性売買業者やそれにつながる権力者たちがいる。24年の新法施行を前に、私たちの社会的信用を落とそうと必死だったのだろうと思う。
残念ながらその攻撃は成功している。若年女性支援が注目され、予算化される見通しが立ったころから、怪しい男性たちによる団体が複数立ち上がった。歌舞伎町だけでも片手で数えきれないほどにはある。半グレ組織とつながる人物が関わる団体も多く、彼らは「女性支援団体」を名乗り始めた。少女たちに声をかけたり、食事を与えたりしながら、彼女たちをコントロールし、そこで被害に遭った少女たちからの相談を受けることもあった。
つい最近も「トー横」に集まる少年少女の「支援団体」を名乗る団体の元代表の男が、17歳の少女にホテルでみだらな行為をした疑いで逮捕された。被害に遭った少女とは歌舞伎町で出会い、食事を提供したり、交通費として現金を渡したりしていたという。
現場に行けば、誰がどのような活動をしているか、どのような目線で少女たちのことを見て、どのような関係性を作り、どのような支援をしているのかがわかるはずだ――と私は思うが、それがわからない人が大半なのだろう。実際に、そうした団体を取材した人や、視察をした議員らが、そのような団体を持ち上げていることが被害を温存・拡大させてきた。