子どもたちを守るはずの施設で何が?
2024年9月、新宿区歌舞伎町の「トー横」(新宿東宝ビル横)に集まる子どもたちを支援する名目で東京都が開設した「きみまも」という施設内で、利用者の少女に対し下半身を触るなどのわいせつ行為をしたとして20代の男2人が逮捕された。男の一人は「時間つぶしで施設に行ってふざけあっていただけ」などと供述し、もう一人は容疑を認めていたと報じられたが、のちに不起訴となった。不起訴になった理由は明かされていない。
この施設は24年5月に開設され、専門の相談員を配置しており、名前や住所を明かさなくても気軽に利用できるフリースペースになっていた。相談員がいる施設で子どもたちが過ごせて「悪意ある大人」から距離をとれると期待されたが、不特定多数の大人が出入りして脱法行為が行われていた疑いが通報で発覚。防犯カメラの映像などから、利用者に「売春」を促すようなケースが確認されているとも報じられた。
この事件について都は「多い時は50人以上が利用しており、相談員の位置から見えなかった」などと弁明したが、50人の利用者がいたから気づけないなんてこと、現場で支援活動をしている者の経験や感覚としてはあり得ない。意図的に見ないようにしていたか、関与しようとしていなかったとしか思えない。
逮捕された一人は、遡ること5月に「トー横」で暴力団組員の男と共にトラブルを起こし現行犯逮捕された人物で、地元をよく知っていれば彼らがどんなつながりをもち、歌舞伎町で何をしているのかわかる相手だ。なぜ、そういう人たちが入り込めたのか。
あたかも女衒(ぜげん)の休憩所となり
「きみまも」に関しては、私たちは24年1月のプレオープン時から警戒していた。開設当時、大々的にメディアで報じられ「支援者による相談もOK」とあったため、私もすぐに現地を訪れた。まず入り口で驚いたのが、女性の相談員から「お名前をこちらに書いてください。ニックネームでも大丈夫です」と言われたことだ。私は40代の男性と2人連れで、さすがに青少年には見えなかったはずだが、何も言わず名前を書いていたら利用者として入れてしまうところだった。気まずさを感じつつ「歌舞伎町を拠点に支援活動をしている者で、見学させてほしい」と申し出ると快く案内してくれた。
そこでさらにショックを受けたのは、普段から「トー横」に集まる少女たちを狙って声をかけ、「売春」を斡旋することで生活している男たちが入場していたことだ。中にいたのは10人ほどだが、全員男性だった。未成年と思われるのは1人か2人で、あとは成人。それも25歳以上と思われる男性がほとんどで、とても少女たちが利用できる雰囲気ではない。
6人ほどの男性はテーブルを囲み、スマホを充電しながらゲームをしていて、椅子やソファに寝転ぶ男性たちもいた。奥にはパーテーションで仕切られたスペースがあり、相談室として案内されたが、そこにも男性が寝ていた。少女を人身売買にかけることで生活している男たちに丸聞こえな空間で、相談などできるはずないだろう。
案内してくれた人に女性の利用者について聞くと、「ほぼなくって……私たちも思っていたのと違うんです」と残念そうに言った。都は専門の相談員を配置していると宣伝していたが、この日いた3人の相談員はColabo(コラボ)の活動も知らず、同行した40代男性を青少年と勘違いしてしまう有様で、「トー横」に関わる人物や少女を性搾取する構造も理解していないようだった。だから施設にいる男性らが誰なのかも分からなかったのだろう。
私は「きみまも」が少女を性搾取する男たちの「休憩所」になっていることに強い危機感をおぼえ、すぐに与野党の都議やメディアにも視察や取材をするよう伝えたが、議員はSNSで「視察に行ってきました!」と成果をアピールし、メディアもその実態を報じることなく都の広報のような報道ばかりが続いた。
「きみまも」が開いている時間、「トー横」に来た少女を「売春」に送り出した男たちは施設内で暖かく過ごし、21時に閉館すると少女が体を売って確保した宿に向かう――。そうした状況が放置されたまま、5月の正式オープン後も性売買業者とつながる男たちや少女を搾取している男たちが出入りし続けていた。さらに、ここに来れば家出した若い女の子たちと話せるからと、「トー横」に縁がなかった成人男性たちもゲームをしに日参するようになった。
事件を認識しながらも施設利用を呼びかけ
24年9月、施設内での性加害が報じられる1週間前に、「きみまも」の実績をアピールする記事が大手メディアに複数掲載された。都は事件を認識しながらも、明るみに出る前に世間に実績を印象づけようとしたのだろう。
例えば「東京都開設の『トー横』相談窓口 2か月で延べ1600人近くが利用 最年少は男女ともに12歳 想定超える利用者数で、相談員の増員も検討」(24年8月29日)というTBSのニュースでは、「当初の想定を超える人数が相談窓口を利用していることから、都は相談員を増員することも検討している」「都の担当者は、『相談窓口には専門の知見を持ったスタッフがいるので、安心して訪れてほしい』と呼びかけている」と報じられた。
「最年少12歳」というのが複数のメディアで見出しとなり、衝撃を受けた人も多いのではないかと思うが、歌舞伎町で活動していれば当たり前のことだ。12歳の少女が虐待から逃れるために来て性搾取の被害に遭う、それが日常であり問題なのだから。少なくとも10年前からそうした状況をColaboは発信していたし、だからこそ支援活動をしてきた。
また、どの報道にも「利用者数が2か月で延べ1600人近く」とあったが、詳細な内訳までは報じられなかった。実際には10代の少女の利用者が少ないことや、毎日利用する男性が多いことから、都は多くを明かしたくなかったのではと勘繰ってしまう。
支援は質こそが大事であるから、利用者数はさして問題ではないが、Colaboが都の委託を受けて新宿区役所前でバスカフェの活動をしていた際、10代の少女だけで1晩(4時間)40人は普通に利用していた。さらに私たちはその場での関わりで終わるのではなく、数年〜十数年の単位で一人一人と継続的に関わり、行政や病院等への同行、シェルターでの一時保護、中長期的な住まいの提供、生活支援や修学・就労支援等あらゆる支援を行っている。