ちなみに20年前ヤマンバギャルだったB子は、現在も「野生の王国」のような衝動の中で生きており、デートを重ねるとか駆け引きするとか、そういうすべてがメンド臭くて仕方ないからいろいろ「すっ飛ばす」のだという。
よってこの相手の時も、一度もデートをせずに肉体関係に至っていた。ということを正直に告げると、「貞操ポリス」は突然説教してきたのだという。
「普通ね、そういうことになる相手だったら、一緒に食事に行ったり、映画に行ったり、そういうことしてお互いのこと知り合うでしょ? そうやってから、その、そういう親密な関係になっていくわけでしょ?」
被害者として「金を盗まれた」と警察に届け出たのに、「食事すら行かずにすぐヤラせる」ことについて苦言を呈されたのだ。警察の、若い男に。
当然、B子はキレた。
「そんなのあんたに関係ないし、なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの?」
それでも食い下がり、B子に貞操観念をなんとか植え付けようと奮闘する警察官。
「いや、でも食事じゃなくてもせめてコーヒーくらい一緒に飲んだりとか……」
が、B子も負けない。
「大体あんな男とコーヒー飲んで喋ることなんかないし! なんでわざわざ一緒に飯食わなきゃいけないの? 話したって面白くもなんともないことくらいわかってんの! それに私、あの男のこと別に知りたくもないの! っていうかそんなこと捜査に関係ないじゃん! 大体なんでこっちが被害者なのに何度も警察に呼び出されて話しなくちゃなんないの? なんで逮捕できないの? 一刻も早く捕まえてよ!」
ものすごい勢いで責めまくった結果、最終的には若い警察官は泣き出したというからちょっとかわいそうだ。
それにしても、と思う。なぜ、内澤氏の話を聞いた刑事も、B子に説教した警察官も、こだわる部分が同じなのだろうと。両者とも、守ろうとしているのは「女の貞操観念」に思える。が、そこに女性本人は不在。もっと言えば、「女の欲望」が男社会の脅威とならないように取り締まりたいという願望すら、うっすらと感じる。
が、世の中にはB子のように、相手の男を知りたくもなく、一緒に食事どころかコーヒーも飲みたくないけれど肉体関係を持つ女も存在するのである。友人の一人としては、「あんな男と喋ることなんかない、一緒に飯なんか食いたくない」と断言できる男性と関係を持ち続けたのはどうかと思うけど、そこは他人が、ましてや警察がガタガタ言う問題じゃないのだ。結果的にはそんな相手は「泥棒」だったのだが、すべては後の祭りなのだ。
「貞操観念が高いか、低いか」
「純潔か、否か」
事件の本質とまったく関係ないところで、男社会の極みである警察から発された言葉には、そんな価値観が透けて見える。「#MeToo」ムーブメントや性暴力被害に対する意識が高まる今だからこそ、社会全体でそのあたりの価値観をアップデートしていきたいものである。
次回は8月7日(水)の予定です。