理不尽にふるわれる暴力。そしてその後で、人が変わったように優しくなる彼氏。仲直りの至福の瞬間。DV男だけは絶対に勘弁したい。
でも、もしベタぼれした相手が「そっち系」だったとしたら……。自分の脳内で「命がけの大恋愛」にすり替えない、という絶対の自信は私にもない。彼女の話を聞いて、DV問題の難しさを改めて思い知った気がした。
大好きなのに、いつキレるかわからない彼氏とのつきあいは、「いつ地雷を踏むかわからない毎日」を送ることでもある。相手の顔色ばかりうかがい過ごす日々は、じっくり物事を考える余裕を、あっさりと奪っていく。強制的にジェットコースターに乗せられているようなものだ。そんな中に長くいると、防衛本能だとか、いろんなものが相まって、常に脳からはいろんな種類の汁が過剰に分泌されている状態だ。
冷静な判断など、ほぼ不可能。そんなのは、決して大恋愛ではない。
それでは正しい大恋愛とはどんなものなのだろうか?
自らを振り返ってみると、残念ながら私には大恋愛という言葉にふさわしいほどのロマンチックな経験はない。ただ、その気分だけならほんの少し、味わったことがある。味わったというか、無理やり自分の中で「大恋愛」ということに脳内変換して、苦しみを乗り切ったのだ。
その時は、「相手が忙しすぎて、なかなか会えない」という苦しみだった。大体、月に1回ぐらいしか会えないなんて、どうかしている。どれだけ多忙かは、わかっている。だけど会いたい。わかってはいるけど、でも、でも、会いたい!! 苦しみが極限にまで達した時、「こんなに会いたいのに会えないなんて! これって大恋愛じゃない?」と一人で盛り上がることにしたのだ。大恋愛の必須条件、「障害」の最大利用である。
が、それには限界があった。本当に会えないのだ。数カ月もたつ頃には、もう「会えないこと」を盛り上がりのネタにするほどの余裕もなくなり、ただただイライラばかりが募ることに。そんな状況に疲れ果て、こっちから「会いたい!」と大騒ぎしなくなると連絡はあっさり途切れ、そのままフェードアウト。結局、大恋愛どころか、相手にとってはただのしつこくて迷惑な奴だったようである。
「彼を支える女」という立場を、大恋愛だと思い込もうとした時期もある。
支えるというか、まぁひとことで言うと、ただの「貢ぎ女」である。しかし、こういう場合、相手の多くはお金をもらうということが当たり前になり、エスカレートしていく。だんだん自分とATMの区別がつかなくなってきたので、こちらからフェードアウトさせていただいた。
世の女子たちに言えるのは、「これだけはやめておいた方がいい」ということだ。当たり前だけど、絶対に回収などできないし、見返りなど何もない。中には「出した金のぶん、いい思いもさせてもらった」と考える人もいるかもしれない。が、そうであっても、確実に卑屈になり、自信をなくすという副作用は満遍なくついてくる。
こういうのとは別バージョンで、「大恋愛気分」を味わう方法もある。様々な「舞台装置」を利用する、というやり方だ。
例えば、もうずっと昔のことだが、つきあい始めたばかりの人と「海外の、しかも、ものすごく不便なクソ田舎」で待ち合わせをしたことがある。旅。異国。そして地球の果てで待ってくれている愛する人。この時は相当、大恋愛気分が込み上げた。
ちなみに私は、英語がまったくできない。海外旅行経験も当時そんなになかった。空港に着いた瞬間に路頭に迷うタイプなのだが、相手の都合でそういう展開になったのだ。現地での交通については、いろいろと詳しく教えてもらっていたものの、もう出発前から不安で一杯。ドキドキして、眠れぬ夜を何度も過ごした。そして当日、ヨーロッパのある国の空港に着き、そこから手配した車に乗り、もう街灯すらないほどの田舎道を走りながら、私の心臓はこれまでにないくらい、高鳴りまくっていた。
「私は、あの人に会うだけのために、わざわざこんな知らない国の果てまで一人で来ている!」という大冒険感。待ち合わせ場所が遠ければ遠いほど、そして非日常であればあるほど、何か「運命の二人がやっと出会うのだ!」という高揚感に包まれる。とにかく、あの時ほど、ドキドキしたことはない。
が、冷静に分析すると、その時に私が感じていたドキドキは、恋愛よりも、「英語がまったくできない自分が、異国を一人で真夜中に移動せざるを得ない恐怖」によるもののほうが、ずっと上回っていた気がして仕方ないのだ。今、思い出しても、ヒヤヒヤするほど無謀すぎる旅だった。よく生きて帰ってこられたものである。
しかし、ここで学んだのは、「海外などの遠くて不便な場所で待ち合わせ」という舞台設定は、確実に大恋愛気分を運んできてくれるということだ。マンネリカップルなどに、ぜひ一度オススメしたいデート方法である。
DVまでも「大恋愛」と脳内変換してしまうのは危険すぎるが、誰もが心のどこかで、「めくるめく大恋愛をしたい!」と思っているはずだ。
一世一代の、すべてを投げ捨ててまで貫き通したい、奇跡のような恋。片道切符感満載なのに、どうにも止まらない暴走列車にしがみつきながら「世界中を敵に回しても、この恋だけは成就する!」という自分の気迫に引いてしまうような、そんな恋。
その先に、何が待っているのかは誰にもわからない。だけど、そんな恋する女子たちを、私は勝手に応援したいと思っている。無様でもなんでも、暴走した者にしか見えない景色があるのだ。私はやっぱり、それを見てみたい。
次回は5月2日(木)、テーマは「思い出」の予定です。