写真家が訪れた南米の奥地では、「金本位制」が採用されていると考えることができる。人類の歴史の中で、古くから価値の代表であった金(gold)、その信用力を基盤にした通貨システムが金本位制だ。
金本位制の始まりは「金貨」。4世紀前半のローマ帝国で作られた「ソリドゥス」、イスラム帝国の「ディナール」など、世界各地で様々な金貨が使われてきた。南米の奥地で金のネックレスが通貨代わりになったように、人類共通の価値基準である金を使った金本位制は、全世界に広がった。
しかし、金には持ち運びが不便な上に、価値が高すぎて小口の決済には使用しにくいという欠点があった。そこで登場したのが「兌換(だかん)紙幣」、政府や中央銀行などが保有している金といつでも交換(兌換)することを保証する「引換券」だ。金を保有しているのと同じとされた兌換紙幣は広く流通、これが経済活動を効率化させ、経済発展の礎となった。
金貨から兌換紙幣になった金本位制は、19世紀初頭にイギリスで確立されて以来、20世紀半ばまで各国の通貨システムの基本となってきたが、次第にその欠点も現れ始める。政府や中央銀行が保有している金の量に基づいていることから、兌換紙幣の発行額には制限があり、経済成長を阻害するようになる。また、財政の悪化で保有している金の量が減少、交換が困難になるという事態も起こり、金本位制を維持できない国も出始めていた。
金本位制に終止符を打ったのが「不換紙幣」の登場だ。不換紙幣は金との交換ができない紙幣で、政府や中央銀行が、秩序を持って発行を管理することで信用力を維持しようというもの。不換紙幣による通貨システムは「管理通貨制度」と呼ばれるが、金の裏付けを失った紙幣は、「紙切れに過ぎないのでは?」という不信を招き、時に経済的な大混乱を引き起こしてきた。
「ニクソン・ショック」がその典型だ。世界各国が国際通貨体制の枠組みを定めた1944年の「ブレトンウッズ協定」に基づき、第二次世界大戦後のアメリカは「金1オンス=35ドル」という金・ドル本位制(ブレトンウッズ体制)を構築した。しかし、ベトナム戦争による戦費増大で大量のドル紙幣を発行した結果、金との交換が不可能になる。71年8月16日、ニクソン大統領は突然、金とドルとの兌換停止を発表、「不換紙幣」となったドルの価値は暴落する。南米の奥地の住民のように、世界中の人々がドルに対して、「ただの紙切れではないのか?」という不信感を爆発させたのであった。
現在の世界経済は金本位制からドルを基軸とした通貨システムが中核をなしているが、ドルの信用力は不十分で、長期的なドルの為替相場の下落がそれを物語っている。
「最後に頼れるのは金だけだ」と、家の金庫に金の延べ棒を入れている大金持ちも少なくない。金本位制は、不便な面はあるものの、人類の長い歴史に培われてきた安心・安全の通貨システム。「金のネックレスなら信用できる」という南米奥地の住民の考え方は、決して時代遅れではない。