同じ事を言い出したのがイギリスだ。「ブレグジット」(Brexit)、“British”と“Exit”を組み合わせた造語で、イギリスのEU(欧州連合)からの離脱を意味している。EUは加盟国が国境の垣根を取り払って「単一市場」を形成、「ヒト」、「モノ」、「カネ」の移動を自由にすることで、経済成長を促そうとする共同体。加盟国が一緒に行動する団体ツアーがEUであり、これによって様々な恩恵を得ようというわけだ。ところがイギリスは突如としてブレグジットを宣言、団体ツアーを抜け出して個人旅行に切り替えると言い出した。
ブレグジットの最大の理由は、大規模な移民の流入。EUは加盟国間のヒトの移動が自由であるため、イギリスへの移民が急増、これが自国の労働市場を圧迫し、公的サービスの負荷も重くなっていた。また、EUに加盟していることで、政策面での制約も多い。団体ツアーに参加している結果、多くの移民と行動を共にすることになり、自由が奪われて、旅行が楽しめないというわけだ。
ブレグジットすれば、移民制限が可能となり、他国に配慮することなく政策を展開できるが、失うものも大きい。最大のデメリットは、単一市場から追い出されること。単一市場に参加していれば関税はゼロ、ビジネス上の手続きも簡単だった。しかし、ブレグジットによって単一市場のメリットが失われるため、競争力低下の懸念が広がり、イギリスからの撤退を決めた外国企業もある。団体ツアーから抜け出すことで、団体割引も適用されず、煩雑な旅行のアレンジも自分で行うのは、大きなマイナスになる。
こうしたことからイギリスは、ブレグジットの交渉過程で、少しでも有利な条件を引き出そうとしている。その最たるものが、EUを離脱しても、単一市場には残留するというもの。穏便なEU離脱と言う意味で、「ソフトブレグジット」と呼ばれているが、EUは断固として拒否している。団体ツアーから個人旅行に切り替える一方で、旅行費用は団体割引継続という「いいとこ取り」は許されない。また、ソフトブレグジットを認めれば、他の加盟国からも同様の動きが出て、団体ツアーが解散に追い込まれる恐れもある。EUは、一切の妥協を許さない「ハードブレグジット」を基本方針としていて、離脱に伴う600億ユーロという巨額の清算金も請求している。団体ツアーから抜けるのは自由だが、「帰国は自力で!」、「キャンセル料を払え!」というわけだ。
団体ツアーに参加していた夫婦は、添乗員との交渉で、割安チケットを手配してもらい、途中で帰国して行った。ソフトブレグジットに成功したわけだが、イギリスはどうなるのか? EUを率いるドイツやフランスなどの「添乗員」との交渉は、激しいものになるだろう。