国内旅行は言葉の問題もないし、なにより安全・安心だ。一方、海外旅行は言葉の問題に加えて、病気になった場合や犯罪に巻き込まれる危険性など、国内旅行に比べて不安がつきまとう。しかし、旅行先の選択肢は広く、より大きな刺激や感動が期待できる上、国内旅行より割安の場合もある。
お金を人間と考えると、「外貨預金」は「海外旅行」に相当する。お金をためる(運用する)場合、最も一般的なのは銀行預金で、日本円で得たお金を、日本円のまま銀行に預ける。面倒な手続きはなく、1000万円までの元金とその利息は預金保険によって保護されるなど、基本的に安全だ。
しかし、現在の日本国内の金利は極めて低水準で、ほとんどゼロに等しい。つまり、通常の銀行預金は「国内旅行」であり、安全で手間もかからないが、そこで得られる利益も限られるというわけだ。
これに対して「外貨預金」は、日本円ではなく、アメリカドルやオーストラリアドルなどの外貨で預金することだ。その魅力は金利が高いこと。預入期間によって違いはあるが、アメリカドルやユーロが3%台、オーストラリアドルは5%台、ニュージーランドドルは7%台となっている。
海外に飛び出せば、日本では考えられないような高い金利をエンジョイできることから、外貨預金にお金を注ぎ込む人が増えている。「海外旅行」の方が、金利が高くて楽しい!というわけだ。
しかし、外貨預金には注意しなければならない点がある。
まず、為替変動リスクだ。外貨預金を作る際には、実際の海外旅行に出発する際と同様に、円を外貨に両替する必要がある。
1年満期のアメリカドル定期預金(金利を3%とする)を、1000ドル作る場合を考えてみよう。預け入れには、円からドルに両替する必要がある。この際の為替相場を1ドル=110円とすると、最初に必要なお金は11万円(=1000ドル×110円)となる。1年後、1000ドルの外貨定期預金には30ドルの利息が付いて、1030ドルとなって満期を迎える。
満期日の為替相場が預け入れ時と同じ110円なら、受け取る金額は11万3300円と、3300円も利息が付く。通常の日本円の定期預金にした場合、金利は0.3%程度だから、受け取る利息はわずかに330円。「国内旅行」より「海外旅行」を選択するのも無理はない。
しかし問題は、外貨預金を作成した後で、円高・ドル安が進んだ場合だ。満期日の為替相場が1ドル=100円だったとしよう。すると、受け取る金額は10万3000円(=1030ドル×100円)と、預け入れ時より7000円も少ない「元本割れ」となってしまうのだ。「海外旅行」に出かけたのはいいが、帰国する際に、思わぬ損が発生してしまうというわけなのだ。
もちろん逆の場合もある。満期日の為替相場が1ドル=120円と円安・ドル高になっていた場合、受け取ることができるお金は12万3600円(=1030ドル×120円)となる。金利に換算すると12.4%で、大変に楽しい「海外旅行」となる。もちろん、預け入れる際の為替相場が円高・ドル安であればあるほど、有利になる。
このように、外貨預金は、その金利だけではなく、預け入れと満期の際の為替相場によって、受け取る利息が大きく変わってくる。いつ、どんな為替相場の時に「海外旅行」に出発するかによって、「外貨預金」によって得られる利息という楽しみには、大きな違いが生まれるというわけなのだ。
多くの日本人が、「外貨預金」という「海外旅行」に気楽に出かけるようになっている。外貨預金が増えれば、その分だけ外国為替市場で円を売ってドルを買う動きが出ることから、外国為替相場を円安傾向にすることもあり、安心感が広がっているのだ。
しかし、油断は禁物だ。円高傾向がはっきりしてきた場合には、外貨預金を解約して円に換えようという動きが一気に広がる。これは、ドルを売って円を買う動きを伴うことから、円高の動きをさらに加速させる。大慌てで海外旅行から帰ろうとする人が殺到し、大混乱に陥るというわけだ。
日本の超低金利が続く中、ブームとなっている「外貨預金」。しかし、今は楽しくても、一歩間違うと大きな損失を被る「危険な旅行」でもあるのである。