「無駄遣いしないように、お母さんが預かっておくね」などと言われて、お年玉を取り上げられた人は少なくないだろう。「本当に返してくれるの?」「お母さんだって無駄遣いしているじゃない」と子供たちには不評だが、お年玉が高額になることもある。両親の管理が必要なことも確かなのだ。だが、大人も無駄遣いしている。とりわけ、ビジネスに成功して巨額の「お年玉」を手に入れた途端に金銭感覚がまひし、身を滅ぼす人が後を絶たない。
富裕層のお年玉を管理してくれるのが「ファミリーオフィス」だ。 大企業のオーナーなど大きな資産を保有する一族(ファミリー)から依頼を受け、専門的なノウハウを駆使して、資産の保全と有効活用を行う専門家集団だ。ロックフェラーやカーネギーなどの大富豪の資産管理と次世代への継承を目的に作られたのが始まりで、ファミリーオフィス専門業者に加えて、プライベートバンキングなども、富裕層ビジネスの一つとして展開している。
ファミリーオフィス業務の中核は金融資産や不動産などの「財的資産」の管理・運用だが、通常の資産運用サービスとは方向性が異なる。資産を増やそうとするのではなく、無駄遣いをなくし、安定性と永続性を追求するのだ。さらに「財的資産」に加えて、「人的資産」と「知的資産」というソフト面にも管理は及んでいる。その範囲は極めて広く、子供たちの学校選びや美術品の購入、さらには社会貢献事業への寄附などについても必要に応じて行っているのだ。ファミリーオフィスが管理するのは財的・人的・知的の三つの資産を合わせた「ファミリーウェルス(富)」全体。これを可能にするために、投資のプロや弁護士のみならず、様々な専門家で構成されているのである。
アメリカには3000を超えるファミリーオフィスが存在していると言われているが、日本ではほとんど知られていない。しかし、大企業のオーナー経営者やその一族が、ギャンブルに大金をつぎ込んだり、法外な値段で美術品を買いまくったりして資産を無駄遣いし、事業を窮地に追いやるケースが、日本でも後を絶たない。お年玉の使い方を知らない人々にこそファミリーオフィスは必要なのだが、ほとんど活用されていないのが実情なのだ。
富豪がお年玉を無駄遣いしても、損失がファミリー内に限定されるなら自業自得と言えるかもしれない。しかし、会社経営の場合には、従業員や株主、取引先など広範囲に影響が及ぶ。こうしたことを避けるために、ロックフェラー家などではファミリーオフィスを積極的に活用し、現在に至るまでその社会的な地位と名声、そして資産を維持し続けてきたのである。
お年玉を預かった両親は、教育費などとして子供のために使ってくれているはずだ。事業に成功して巨額のお年玉を手に入れると、自家用ジェットを購入したり、オークションで現代アートを高額で競り落としたりして話題を振りまく人がいるが、これが破滅への第一歩となることが多い。お年玉を自己管理できないなら、ファミリーオフィスに預けること。これが事業を継続させる一つの方法なのである。
ファミリーオフィス
[Family office]