ゴルフのルールが記された「ゴルフ規則」は、驚くほど詳細だが、アマチュアでも概略を知った上でプレーすることが推奨されている。ゴルフが、審判が立ち会わずにプレーヤーの自主性に委ねられるスポーツであるためで、ルールがあやふやであったり、守られなかったりすると、ゲームの面白さが失われ、プロの場合にはファンも失望させてしまう。そこで詳細なルールを決めて順守を求めるのだが、あまりに煩雑なために、プロでも審判である競技委員に確認することもある。
証券市場を中心とした投資の分野にもルールが定められている。「金融商品取引法」だ。2007年に施行された法律で、かつての「証券取引法」を元に、株式だけでなく、デリバティブを含めた投機性のある金融商品に対象を拡大したことから名前も改められた。その目的は「国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資すること」。株式市場などでは、投資家や金融機関がプレーヤーとなって、日々活発な取引というゲームが行われている。金融商品取引法は、フェアプレー維持のためのルールなのだ。
金融商品取引法はまず、「企業内容等の開示の制度」、いわゆるディスクロージャーのルールを定めている。投資家にとって、投資先の情報は投資判断をする上で最も重要なもので、正確かつ迅速に開示されることが必要だ。そこで金融商品取引法は、有価証券報告書を四半期ごとに公表し、記載内容が適正であることの「確認書」の提出、さらには必要に応じて臨時報告書の提出なども求めている。ゴルフのスコアが自主申告であるのと同様に、企業情報の開示も企業の自主性に委ねられている。虚偽の申告によって投資家の判断が歪められないように、厳格なディスクロージャーのルールが定められているのだ。
金融商品取引法は、「風説の流布」や「相場操縦」、「インサイダー取引」などの不公正な行為も禁じている。インチキが横行すれば、フェアプレーをしている投資家が損失を被ることになり、市場の信頼が失われてしまうからだ。
ゴルフでルール違反があった場合にペナルティが課せられるが、金融商品取引法にも厳しい罰則が定められている。証券取引等監視委員会や警察などが監視の目を光らせ、違反があれば個人であっても告発されたり逮捕されたりする。スコアを誤魔化したり、規定外の用具を使ったりしたプレーヤーに対して、厳しい処分を下すのである。
日産自動車のカルロス・ゴーン会長が2018年11月19日に東京地検特捜部に逮捕されたが、その容疑が金融商品取引法違反だった。有価証券報告書に記載されていた報酬が過少だったという。ゴーン会長はゴルフのスコアにウソを記載していたというわけで、一緒にプレーしていた取締役も逮捕されている。日産自動車を再生した「スタープレーヤー」の逮捕は大きな衝撃だが、報酬の過少申告による逮捕は極めて異例だ。ゴーン会長は逮捕されるほどのルール違反を犯したのか? 陰謀ではないのか? などの声も広がっている。ゴーン会長のルール違反を認定するのは審判である裁判所。金融商品取引法の適用を巡る裁判の行方は、大きな注目を集めるだろう。
金融商品取引法
[Financial Instrument and Exchange Act]