「JFKは本当に凄かった」と懐かしむのは、阪神タイガースファンの知人だ。JFKは2005年のリーグ優勝の原動力となった3人のリリーフ投手陣に付けられた愛称で、ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之の頭文字を組み合わせたもの。3人が揃って登板した試合の勝率は8割以上で、リードしてJFKへつなぐ「勝利の方程式」は、ファンの絶大な信頼を得ていた。JFKのように頭文字を使った愛称はしばしば登場している。「BRICs」は経済成長が著しいBrazil、 Russia、 India、 Chinaの4カ国をまとめた愛称。欧米人はこうした愛称をつけるのがとりわけ好きなようだ。
「FANG」は株式市場をけん引するIT企業をまとめた愛称だ。フェイスブック(Facebook)、ネット通販のアマゾン・ドット・コム(Amazon.com)、動画配信のネットフリックス(Netflix)とグーグル(Google、現アルファベット傘下)の4社の頭文字をつないだもので、アメリカの株式評論家ジム・クレイマーが作った造語だ。
15年のアメリカ株式市場が総じて伸び悩んでいた中で、フェイスブック+34%、アマゾン+119%、ネットフリックス+129%、グーグル+47%といずれも大きな上昇を見せた4銘柄に注目したクレイマーは、その頭文字からFANGという愛称を作り、けん引役としての期待を寄せたのだった。
FANGは投資家の間に広がり、アップルを加えたFAANG、半導体のエヌビディアを加えたFANNG、アップルを加えた上で、ネットフリックスではなくマイクロソフトを入れるべきだとするFAAMGなど、その発展形が登場。FANGの名付け親クレイマーも、メディア大手のコムキャストと半導体製造のアバゴ・テクノロジーを加えたCAAFANNGへと拡大させている。
日本にもFANGになぞらえたSUNRISEがある。ソフト・バンクの「S」、任天堂の「N」、リクルートホールディングスの「R」、ソニーの「S」からSNRS(SUNRISE)と呼ばれている。FANGほどのパワーはないとの評価もあるが、阪神ファンがJFKに熱狂したように、愛称を付けることで投資熱を高めて、株式市場を盛り立てようという思惑もあるようだ。
阪神ファンの頼みの綱だったJFKだったが、Jを担っていたウィリアムスがケガで09年限りで退団したことで解散となる。これ以降、勝利の方程式は見つからず、JFKが活躍した05年を最後にリーグ優勝から遠ざかっている阪神タイガースに、ファンは毎年ため息をついているのである。
アメリカの株式市場をけん引してきたFANGにも陰りが見え始めた。18年7月26日、フェイスブックの株式は突如として約19%の暴落を見せた。企業価値を示す時価総額は約1190億ドル(約13兆円)も減少、1日当たりの時価総額の喪失額は米上場企業で最大となった。鉄壁を誇っていたリリーフ投手陣の一人が、滅多打ちされたというわけだ。この暴落は一時的なものなのか? 残る3社は大丈夫なのか? もし、Fが駄目なら、あるいは残るANGも駄目になるなら、これらに代わる企業が現れるのか? 史上最高値を更新し、連戦連勝を続けてきたアメリカの株式市場、その勝利の方程式を不安視する声が広がり始めている。
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