「経済の解説者」であるエコノミストが行っているのが「経済予測」だ。景気はよくなるのか? 為替相場や株価はどう動くのか? などの様々な経済活動について、予測の精度を競っている。
経済予測のやり方は、プロ野球の順位予測と基本的に同じだ。GDP(国内総生産)の予測を例に見てみよう。GDPは大きく分けて「消費」「設備投資」「輸出・輸入」「政府支出」の四つの部門で構成されている。エコノミストは消費について、百貨店の売り上げといった基本的なデータに、消費者心理動向や天候なども考慮し、独自のノウハウで変化を予想する。設備投資についても、企業活動を示す「法人企業統計」などのデータに加えて、景況感を示す「日銀短観」なども加味して予想している。野球解説者が、打撃力や投手力などを総合して優勝チームを予測するように、エコノミストも部門ごとの数字を積み上げてGDPの予想値を算出しているのだ。
世界経済全体の見通しや、為替相場や株式相場の動向などについても同様で、基礎的なデータを基に、独自の手法や長年の経験で予測をしているエコノミストたち。的外れな予想を繰り返す野球解説者が信頼されなくなるように、正確な経済予測はエコノミストの「生命線」となっている。
その信頼を大きく揺るがせたのが、2014年7~9月期GDPの「第1次速報値」(11月17日公表)の予想だった。
エコノミストの平均予測値はプラス2.4%(年率)だったが、実際の数字はマイナス1.6%という「大外れ」。設備投資の予想外の低迷が原因だった。「優勝は巨人!」と全員が予測していたら、最下位予想のチームが優勝をさらったようなもので、その信頼は地に落ちてしまったのだ。
エコノミストたちは、GDPの中で最大の割合を占める「消費」が、消費税引き上げで減少するものの、2番目に大きな設備投資が大幅に増加するとしてプラス成長を予想した。「四番バッター」は不振でも、「三番バッター」がホームランを打つと予想したわけだが、結果は「空振り三振」だったわけだ。国際情勢の変化や株式市場の暴落など、予測不能の出来事で経済は大きく変化することから、正確な経済予想を出すのは容易ではない。
GDPの予測については、さらに難しい事情がある。GDPの「第1次速報値」は、英語名の「Quarterly Estimation」(四半期予測)が示すように数字そのものが「予測値」なのだ。GDPの算出には膨大なデータが必要で、「第1次速報値」の段階では全部がそろっていない。そこで内閣府は、独自に算出した仮のデータでGDPを算出する。14年7~9月期GDPでは、12月8日に第2次速報値が発表されたが、第1次よりもさらに低いマイナス1.9(年率)だった。「確報」が出されるのは翌年12月になる。エコノミストは内閣府の「予測値」を「予測」することから、一層難しい作業になるのである。
年始に発表された経済予測を年末に検証確認してみると、あまり当たっていないことがよく分かる。しかし、経済予測は極めて困難な作業であり、外したからと言ってエコノミストに「丸坊主になれ!」と迫るのは酷なのかもしれない。