赤城徳彦農水相に新たな火種
松岡利勝農林水産相は「政治とカネ」をめぐる疑惑を背負ったまま自殺したが、後任に選ばれた赤城徳彦農林水産相にも7月7日、事務所費問題が浮上した。赤城農水相の政治団体「赤城徳彦後援会」が、茨城県筑西市内の両親の自宅を「主たる事務所」として届け出、多額の事務所費を計上していたことが判明した。
茨城県選挙管理委員会に提出された政治資金収支報告書によると、1990年から2005年の16年間の経常経費が計1億2300万円になると報道されている。父親や代表を務める人物は「政治活動はほとんどしていない」と証言した。
このため、06年12月に辞任した佐田玄一郎行政改革相と同じような架空経費・経費付け替えの疑惑が浮上した。
赤城氏は7月7日午後、記者団に対して「(事務所は)後援会活動の中核で、初当選以来のまさに拠点だ。付け替えや架空計上は全くない」と釈明したが、実際に経費を支払ったことを示す領収書の提示などはなく、説得力を欠いた。
赤城問題には3つのウイークポイントがある。それは、①事務所費の金額の大きさ、処理の仕方が、架空経費や経費付け替えで行革相を辞任した佐田玄一郎氏のケースとほとんど同じこと、②問題が「政治資金管理団体」でなく「政治団体」で起きたため、政治団体を対象外とした与党案による法改正が説得力を失ったこと、③久間章生防衛相の辞任の直後だけに、閣僚辞任は絶対避けたいとの事情、である。
疑獄の中心は知事に移行
戦後政治史をひもとくと、造船疑獄、政界黒い霧、田中金脈問題、ロッキード事件、グラマン・ダグラス事件、リクルート事件など「政治の裏にカネあり」と言われるほど、政治家、特に国会議員による疑獄・汚職事件が政界裏面史をいろどってきた。ところが、この数年は様相が少し違う。国会議員が直接「カネの事件」に巻き込まれることが少なくなり、これに反比例して県知事が当事者となる事件が頻発している。
最近の例だけ見ても、①福島県の佐藤栄佐久知事を収賄容疑で逮捕(06年10月)、②和歌山県の木村良樹知事を談合事件で逮捕(06年11月)、③宮崎県の安藤忠恕(ただひろ)知事を第三者供賄で再逮捕(06年12月)、と相次いだ。
知事本人は逮捕を免れたものの、長崎県の金子原二郎知事、広島県の藤田雄山知事にも疑惑が指摘された。
知事が受け取ったカネの大部分が「裏金」として処理され、政治資金規正法で定められた収支報告書にも届け出がなかった。これら裏金の多くが、県会議員などに対する地元政界工作に使われたとの証言もあるが、真相は闇の中だ。
国会議員の汚職摘発が激減し、代わって知事が摘発される例が多くなったのは、地方分権が進んだ結果、知事権限が大きくなり、「天の声」によって県事業の受注が決まるためだ。地元政財界の癒着体質も指摘されている。
迂回(うかい)献金、献金隠しなど問題山積
ところで、05年の政治資金総額は2883億円。中央分が1328億円で地方分は1555億円。国政選挙のある年は前年より政治資金が増えることが多いが、対前年比は1.2%減だった。この年の衆院解散・総選挙は突然だったため、選挙資金集めが後手に回ったためとみられる。このうち企業・団体献金は、日本経済団体連合会(経団連)が献金の呼び掛けを再開したのを受けて、対前年比8%増の170億円。企業献金への依存体質を強めつつある。
「政治資金管理団体」というのが国会議員の「財布」となっている。議員がそれぞれ一つしか持てない。1994年の法改正で実現した。政治資金管理団体に対する企業献金も2000年以降、禁止された。
ところが実態はどうか。自由民主党議員は自らの政治資金管理団体を持つと同時に、小選挙区(比例代表区)の支部長に就任することでもう一つの「財布」を持つことになった。
05年政治資金収支報告書によると、自分が支部長を務める政党支部から、自らの政治資金管理団体に寄付を行ったのは衆参で114人。これは共同通信の調べによるものだ。
国民新党に移った綿貫民輔氏の場合、自民党支部分を含めて2億1555万円を自らの政治資金管理団体「民峰会」に移した。民主党の小沢一郎代表は1億3000万円、亀井静香氏は6700万円、中川昭一氏は6650万円、安倍首相にも1609万円の資金移動がみられる。
政治資金管理団体が直接、企業献金を受けられないため、いったん政党支部で献金を受けて政治資金管理団体へ資金を回す「迂回献金」と言える。こうした脱法行為を防ぐ法改正も必要だろう。
もう一つ「献金隠し」として問題になった旧橋本派(平成研究会)の1億円小切手事件では、第一審で無罪となった村岡兼造元官房長官が、5月10日の東京高裁の判決で、逆転有罪となった。会長代理だった村岡氏が有罪とすれば、会長の故橋本龍太郎元首相や、当時、幹部会に同席した青木幹雄参院議員会長、野中広務元幹事長が不起訴または起訴猶予というのはおかしい。一罰百戒ならぬ百罰百戒があってしかるべきだった。
同事件を受けた05年の法改正で、政治団体間の寄付を5000万円までに制限した。しかし、そもそも政治家が政治家にカネを配ること自体が、近代民主国家の政治にはない奇妙な風習であり、政治家のほとんどは政党を通じて国の政党助成金までもらっているのだから、「政治のカネ」の使い道に厳しい歯止めが必要だ。