代表監督はザッケローニ氏
2014年にブラジルで開催されるワールドカップを目指して、新生日本代表が動き出した。ワールドカップ南アフリカ大会での「ベスト16」を最後に退任した岡田武史前監督の後任がなかなか決まらず、9月上旬に行われた2つの親善試合は原博実技術委員長が代行で指揮をとるという異常事態もあったが、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ氏(57歳)と正式に契約を締結、10月8日(金)、アルゼンチンとの親善試合(埼玉スタジアム、19時50分キックオフ)では、ザッケローニ新監督がベンチで指揮をとることになる。14年まで4年。南アフリカで奮闘したチームは年齢的にピークを過ぎる。「新しい血」の導入が不可欠となる。だが、「4年後」だけを見据えて若いチームを鍛えていくという方法は、代表チームではなかなかとりにくい。
代表選手の入れ替えは時間が必要
11年には、1月にカタールでアジアカップが開催される。アジアの王者を決める大会。上位進出を見込めるチームを送り込まなければならない。さらに7月には、アルゼンチンで開催されるコパアメリカ(南米選手権)に招待されており、これも、中途半端なチームで行くことはできない。何よりも大きいのは、ワールドカップ2014ブラジル大会のアジア予選が、早くも11年の9月にスタートする予定になったことだ。アジアサッカー連盟(AFC)が決めただけで、ワールドカップを主催する国際サッカー連盟(FIFA)の承認を得ていないため正式ではないが、日本としてはそのとおりに行われると仮定して強化スケジュールを決めなければならない。
このような日程があるため、日本代表を一挙に若返らせるようなことはできない。これまでの代表チームをベースに徐々に入れ替えを行う、「入り口と出口を開けておく」というオーソドックスな方法がとられることになるだろう。
若手が輝いた9月の代表2連戦
9月4日に横浜で行われたパラグアイ戦は、11人の先発中7人を「ワールドカップ組」で固め、しかも6人が「海外組」という布陣。全員が90分間集中した意欲的なプレーを見せ、ワールドカップでは最終メンバーからもれたMF(ミッドフィルダー)香川真司(21歳、ドルトムント)の得点で1-0の勝利を収めた。7日のグアテマラ戦(大阪)は、多くのメンバーが故障などで離脱したが、ワールドカップでは出番がなかったFW(フォワード)森本貴幸(22歳、カターニャ)が2点を決め、2-1で連勝となった。初めて日本代表に選ばれたMF細貝萌(24歳、浦和)がデビューを飾っただけでなく、2試合ともボランチとしてフル出場、「ワールドカップ組」に負けないプレーを見せた。ワールドカップ組を中心に組みながら、香川、森本、細貝といった若手が中心選手となる活躍を見せたのは、うれしい驚きだった。
指導体制も固まる
意欲的だったのは選手たちだけではない。この試合後、ザッケローニ新監督はいったんイタリアに戻り、日本への就労ビザを取得すると、わずか1週間で4人の「チーム」を連れて戻ってきた。コーチのステファノ・アグレスティ氏(54歳)、GK(ゴールキーパー)コーチのマウリツィオ・グイード氏(53歳)、フィジカルコーチのエウジェニオ・アルバレッラ氏(45歳)、そしてテクニカルアシスタント(情報分析)のジャンパオロ・コウラッティ氏(40歳)の4人は、いずれもザッケローニ監督と長くいっしょに仕事をし、気心の知れたプロたちだという。日本代表の指導陣には、このほか、コーチにオリンピック代表の監督も兼任する、Jリーグ1部川崎フロンターレの前監督、関塚隆氏(49歳)、アシスタントコーチとして01年から各年代の日本代表テクニカルスタッフを務めた和田一郎氏(36歳)もはいることになっている。
強豪に挑む10月の2連戦
注目は、もちろん、世界のトップクラスのひとつである10月8日のアルゼンチン代表との親善試合、そしてそれに続く韓国との親善試合(10月12日、ソウル・ワールドカップスタジアム、20時キックオフ)だ。アルゼンチンは9月7日にブエノスアイレスで世界チャンピオンのスペインと戦い、4-1という大勝を飾っている。ワールドカップの準決勝でドイツに0-4とたたきのめされたショックをぬぐい去るため、セルヒオ・バティスタ監督は守備陣に思い切ってサネッティ(37歳)などのベテランを起用、守備を安定させた。そして、MFメッシ(23歳)、FWイグアイン(22歳)、FWテベス(26歳)、交代出場のFWアグエロ(22歳)といった若い攻撃陣が次々と得点を決めた。
この試合で超満員のリバープレート・スタジアムを熱狂させたのが攻撃的MFのエベル・バネガ(22歳)。スペインのバレンシアで活躍する小柄な攻撃的MFだ。得点力はそう高くはないが、圧倒的なドリブルで相手守備陣を引きつけ、決定的なパスを出す。アルゼンチン国内では「メッシ以上に重要な選手」という声まである。
能力引き出す監督の手腕に期待
アウェーで対戦する韓国も強敵だ。FIFAランキングではなぜか日本より下だが、ワールドカップ前の5月には埼玉スタジアムで0-2の完敗を喫している。その試合の「リターンマッチ」が、10月12日、ソウルでの試合だ。ワールドカップ後、趙広来(チョ・グァンレ)監督(56歳)が就任、ワールドカップの中心選手を残しつつ、思い切って若手選手を注入、8月にはワールドカップでも対戦したナイジェリアを招いて2-1の勝利を飾った。9月7日、イランとの親善試合(ソウル)は0-1で敗れたが、「なんとしても11年のアジアカップで優勝する」と鼻息は荒い。ホームのファンの前で連敗を喫することはできない。当然、日本戦も、ヨーロッパ組を含めたベストメンバーで臨むに違いない。MF朴智星(パク・チソン=マンチェスター・ユナイテッド)、MF李青龍(イ・チョンヨン=ボルトン・ワンダラーズ)、FW朴主永(パク・チュヨン=モナコ)という強力な3トップを防ぎ、本田圭佑(CSKAモスクワ)を中心とした日本の若い攻撃陣が爆発するか、非常に楽しみな対戦だ。
これまでのところ、穏やかに笑っているだけで、メディアにもさしさわりのないコメントしか出さないザッケローニ新監督。しかし試合の場になったら、「本性」も見えてくるだろう。日本代表の力をどう引き出し、この困難な相手に勝つためにどう導いていくのか、新監督の手腕を見るうえでも楽しみな10月の2試合だ。