減る資源、広がる魚食文化
世界のマグロ漁獲量は増え続けている
欧米のテレビニュースでは、紺の背広を着た日本の会社員がそろってマグロや鯨を食べまくる映像が多用されているという。「世界からSUSHIが消える日」という副題がついた訳本まで出版された。魚食いの日本人は目の敵にされているようだが、実際には、中国でも欧米でも、すしブームが起き、水産物需要は急激に伸びている。魚はおいしい健康食品として評価されているのだ。
管理は広域、厳格に
マグロは遠洋を移動するから、国際管理が必須である。一つの海域で管理しても他の海域に行って獲ってしまっては管理は成功しない。そこで、2007年から水産庁が呼びかけて、5海域のマグロ資源国際管理機関の合同会議を開くことになった。ただし、日本のミナミマグロの漁獲量が1800トンもごまかしていたことを日本政府が認めた。資源量は、漁獲量をもとに推定される。漁獲量の過少申告は、乱獲の隠れみのというだけでなく、今まで蓄積してきた科学的な資源管理の評価結果をご破算にしてしまう。日本は、その信頼を大いに損なった。日本のミナミマグロ漁獲割当量が大幅に減らされたのは当然である。おそらく、漁獲量をごまかしたときから、マグロ漁業者はこの日が来るのを覚悟していただろう。数十年後の資源を守ることより、その船が廃船になるまでの収益が、彼らの最大の関心事だったのかもしれない。漁獲枠を大幅に減らす以上、漁船を大幅に減らすしかない。以前のように外国に船を売っても資源の回復にはつながらない。外国船となって操業されたら、ますます管理しづらくなるだけである。
一方、マグロの完全養殖は、日本の近畿大学で成功している。その実用化までの道はまだ遠いが、若齢魚を生け捕りにして、いけすで大きくしてから売る畜養技術は進んでいる。これも日本で開発した技術だが、地中海(東大西洋クロマグロ)やオーストラリア(ミナミマグロ)で実用化されている。けれども、これも漁獲量の不透明さを助長した。出荷時の生産量は分かるが、生け捕りにしたときの漁獲量が分からなければ、資源への影響は評価できないからだ。
マグロ食偏重の見直しを
私は、マグロやサケの小食を勧める。海の生態系にはプランクトン、海草、死骸などを出発点とする食物網ピラミッドがある。大ざっぱに言って、食物連鎖の下位にいる生物ほど現存量が多く、上位にいる捕食者は現存量が少ない。マグロは最上位捕食者であり、資源量が限られている。イワシ類やサンマなどはプランクトンを食べる下位の生物で、資源量は膨大だ。マグロは嗜好(しこう)品として食べる程度で十分である。イワシやサンマの欠点は、海洋環境の変化など時代とともに変動が激しく、減っているときは禁漁にしても減るが、増えているときは獲りきれないほど獲れることだ。06年現在、マイワシは激減しているが、カタクチイワシやサンマは獲りきれないほどたくさんいる。マグロは、水銀含有量も高いことで知られている。上位捕食者ほど、水銀などの有害物質が蓄積する傾向がある。DHA(ドコサヘキサエン酸)などの不飽和脂肪酸も蓄積するが、これはイワシでも十分摂取できる。食品安全基準では、マグロをたまに食べるという前提で評価されている。
マグロは、海外でも、特に中国の需要の伸びが著しいという。資源が減って需要が増えているのだから、需給が逼迫(ひっぱく)するのは当然である。これは、マグロに限ったことではない。13億人(05年末)の巨大な人口を抱える中国の経済が発展し、一人当たりの消費が伸びれば、世界の食糧需給はたちまち逼迫する。中国の食料輸入の増大は、ごく近い将来、先進国の中で著しく食料自給率が低い日本を直撃するだろう。
日本人の食生活は、欧米人に比べて間接穀物消費量(摂取する畜肉の飼料など含めた穀物消費量)が低く、水産物消費量が高い
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危機をチャンスに!
00年12月、「責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)」という国際NGO(非政府組織)ができ、日本が外国に払い下げたマグロ漁船を廃船にするなどの努力をしている。ようやく、各海域の漁業管理機関に登録された漁船の獲ったマグロだけを輸入する、国際的な仕組みができつつある。日本は世界一の水産物消費国である。責任ある持続可能な漁業による漁獲物の認証制度を発達させ、日本が中心になって、無責任漁業で獲られた水産物の輸入や消費を制限していけば、世界の持続可能な漁業を推進する主導権を発揮することができるだろう。