通常の企業合併
近年、M&A(企業の買収・合併)ブームともいわれるように、企業間の組織再編が盛んだ。二つの会社が合併によって一つの会社になることで、企業規模を拡大したり、お互いの弱点を補強して競争力を強化することが可能になる。通常、二つの会社(B社とC社)が合併して一つの会社となる場合、どちらか一方の会社(例えばC社)が存続会社となり、もう一方の会社(B社)は消滅する(吸収合併)。この場合、消滅するB社の株主は、存続するC社の株主となるので、今まで所有していたB社株式の代わりにC社株式を受け取ることになる。このとき、「合併対価(合併によって消滅する会社の株主が受け取るもの)はC社株式である」と表現する。
合併は企業のあり方を大きく変えるため、双方の株主総会での特別決議による承認(出席株主の3分の2以上の賛成が必要)が求められる。
三角合併とは
三角合併とは、B社とC社の合併対価として、通常のC社株式ではなく、C社の親会社であるA社の株式を、B社の株主に対して交付する仕組みだ()。なぜそのようなことが必要なのだろうか。合併するB、C両社が、どちらも東京証券取引所など取引所の上場会社であれば、通常の吸収合併で特に問題はない。しかし、存続するC社が非上場会社で、消滅するB社が上場会社という場合には、B社の株主にC社株式を交付したのでは、合併後は、旧B社の株主が株式を円滑に売却することが難しくなってしまう。それでは株主の賛成を得られないだろう。そこで、C社の親会社A社が上場会社(外国の取引所でも良い)であれば、C社株式ではなくA社株式を交付するのだ。
このように三角合併は、親会社の株式を存続会社の株式の代わりに合併対価として用いることで、合併をやりやすくするというものだ。今回施行された会社法の規定は、広く「合併対価の柔軟化」を認めるもので、三角合併だけでなく、合併対価として現金を交付する「キャッシュアウト・マージャー」なども可能となる。この場合、先ほどの例で言えば、旧B社株主は、現金を受け取って、存続するA社、C社とは全くかかわりを持たなくなる。
敵対的買収には使えない
三角合併を使うと、例えば、アメリカの会社が日本に設立した子会社を日本の会社と合併させる際、親会社であるアメリカの会社の株式を交付することができる。この点が、欧米企業による日本企業の買収の活発化を促しかねないとの意見が出され、合併対価の柔軟化の規定の施行を、会社法の他の規定よりも1年遅らせ、07年5月にすることにつながった。その1年間で、買収される会社の経営者が同意していない、いわゆる敵対的買収に対する防衛策の導入を図れば良いと考えたのだ。経済界からは、三角合併が簡単に実施できないように、利用できる会社の範囲を制限したり、手続きを厳格にするべきだといった声もあがった。
もっとも、この議論は、三角合併に対する誤解に基づくもののように思われる。会社間の合併は、経営者が自ら合併契約を結んだ上で、株主総会の特別決議を得て行われる。三角合併も合併である以上、嫌がる経営者に無理強いするのは難しい。合併対象の会社の同意を得ないまま市場で株式を買い集めたり、株式公開買い付け(TOB)を仕掛けたりする敵対的買収とは異質のものだ。
むしろ、三角合併の解禁は、国内企業間を含め、企業の友好的な再編に用いられる手段を多様化するもの、と捉えるべきだろう。
外資による支援も有効なはず
三角合併の解禁をめぐる議論とその1年延期は、外国企業による買収の可能性を現実的な脅威と感じる日本企業の実情を浮き彫りにした。しかし、日本企業の抱く懸念には、三角合併制度に対する誤解という点を割り引いたとしても、理解しにくい面がある。経済のグローバル化が進む今日では、日本企業が世界各地に進出しているのと同様に、世界各国の企業が日本に進出しようとするのは当然だ。その際、一から事業を立ち上げるのではなく、より効率的な手段として日本企業の買収を考えることもあり得るだろう。日本企業の側でも、独立性の維持だけにこだわるのではなく、外国資本の支援を得て企業価値の向上を図る、という考え方があっても良いはずだ。