「円高」ってどういうこと?
まず「円高」とは、文字通り「円の価値が(他の通貨に比べて)高い」ということである。したがって、基本的には「円」を持っている日本人にしてみれば、とても良い状況である。例えば「円高」の状況だと、ハリウッド映画業界も日本に熱い視線を向けることになる。なぜなら、日本人はいつもと変わらぬ映画のチケット料金を払っていても、「円高」だとハリウッドの儲けが大きく違ってくるからだ。日本で「興業収入100億円」という大ヒットをした場合、ドルに換算すれば、実質で「興業収入120億円」というような利益をもたらすことを意味する。そこで、ハリウッドは「ジャパンプレミア」のような、特に日本を優先するイベントを増やすなど、何とか日本人の気を引こうという動きが増えてくることにもなる。まさに「円高」とは、私たちの「ジャパンマネーの魅力が増している」ことに他ならない。また、当然のことながら「円高」だと、私たちは海外の商品を安く買うことができるようになる。具体的には、海外旅行に安く行けたり、海外のブランド品や食料品などを安く買えるようになるのだが、こうした一般的な話だけではなく、「住宅」のような「人生で最も大きな買い物」においても関係してくる。例えば、カナダの住宅をそのまま日本に持ってきて組み立てるようなメーカーもあり、まさに「円高」で、住宅のような大きな買い物までも大幅に安くできるようにもなるのである。
「円高」にはマイナスの面もある
だが、その一方で「円高不況」という言葉があるくらい、「円高」には負の面も存在する。これは、「円高」が進むと、日本の「輸出」にダメージを与えることになるからである。「円高」というのは、先にも説明したように「円の価値が高い」ことなので、「100万円の日本の商品」が、アメリカのドルで見ると「120万円の商品」のような状況になってしまい、「日本の商品は割高」と映ってしまうのである。そのため、「円高」が進めば進むほど、日本の商品は海外から敬遠されてしまうことにもなる。こうなると、円高は日本の輸出企業の業績にマイナスに働いてしまうことになる。「円高」と「株価」の関係は?
では、どの程度の「円高」ならば、いいのだろうか? 輸出企業を例に考えてみよう。まず、基本的に大手会社の場合、毎年「次の年はこのくらいの儲けになりそうだ」という目標を立てて公表している。その際に、特に輸出企業においては「想定為替レート」というのが重要になる。この「想定為替レート」とは、その会社の利益を計算する際の「前提」になるものなので、この「想定為替レート」が「株価」を大きく左右することにもなる。例えば、2010年では「想定為替レート」を「1ドル=85円」としている企業が多かったので、為替が「1ドル=85円」を上回る「円高」に動けば、そのぶん日本の輸出企業の儲けが減ってしまう。そのため、日本では株が売られることになり「株安」につながる。逆に為替が「1ドル=85円」を下回る「円安」に動けば、そのぶん日本の輸出企業の儲けが増えることになる。そのため、日本では株が買われることになり「株高」につながることになる。このように、「円高」というのは、主に輸出の面から「株価」にマイナスの影響を与えることが多いのだが、「想定為替レート」を大きく上回るような急激な「円高」が進まない限りは、会社は企業努力で目標の利益を達成できる場合も少なくない。だが、あまりに「円高」が進みすぎてしまうと、今度は「産業の空洞化」という問題が出てきてしまう。つまり、あまりに「円高」が進み過ぎてしまうと、「国内で作ると割高になってしまうので、現地で作ってしまおう」という流れが進み、日本国内の仕事が減ってしまうという問題が出てくるのである。
以上のように、円高をひとくくりに善し悪しで括ることはできないのである。
「円高」をどのように生かせばいいか?
ただし、「円高」は「投資」に応用できる点を忘れてはいけない。「円高」の状況というのは、日本の会社から見れば、「海外の会社を安く買える」ということも意味する。そこで個人の場合は、この「円高」のタイミングにうまく乗って、成長が見込める海外の会社を「割安な状態で積極的に買収している会社」に注目すればいいのである。実際に、この「円高」を追い風に、2010年の日本企業による海外へのM&A(買収や合併)は、件数が前年比で24.1%増の371件、金額でも前年比26.8%増の3兆6652億円と増加している(レコフ調べ)。このような日本の会社は、将来的に「円安」になっても、海外で上手に利益を上げ続けることが可能にもなる。つまり、この歴史的な水準の「円高」の局面を「チャンス」と捉え、積極的な動きをしている会社の株は、私たちの「投資の対象」として有望視することもできるのである。このように、「円高」というのはチャンスも多く、基本的には、私たち日本人には「好ましい状況」と言える。
特に「円」を持っている個人にとってはプラスの面が多いので、不況風にあおられることなく、せっかくのこのタイミングを前向きに活用することを検討してみるのが望ましいだろう。