「厳しくしかられたけど、それってパワハラ?」とか「同僚から無視されているけど、パワハラなのかしら?」など、「あれ? パワハラって何だったかな?」と思われるほど、今簡単にパワハラという言葉が使われています。そのため、パワハラといわれるのが怖くて指導できないという声や、権利ばかり主張する部下が増えて困るという意見も聞かれるようになりました。
パワハラの定義と意味
一般的に「いじめ・嫌がらせ」というと同僚同士で行われるもので、仕事とは関係ない言動というイメージがあると思います。例えば、私用で使い走りをさせる、皆でからかうなどがあります。また「パワーハラスメント」というと、上司が部下に対して指示・命令を行う、また指導を行う際の行き過ぎた言動というふうにイメージされるでしょう。
厚生労働省は2011年7月から有識者による「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」でこの問題を討議し、12年3月にパワハラとは何かの定義を行いました。
「職場のパワーハラスメントとは、(1)同じ職場で働く者に対して、(2)職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、(3)業務の適正な範囲を超えて、(4)精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
この定義を見てみると、何がパワハラなのかがよくわかります。
まず「(1)同じ職場で働く者に対して」という文言がありますが、同じ職場で働く者ということなので、当然社員だけでなくアルバイト、パート社員をはじめ契約社員や派遣社員も含まれることになります。
では顧客や取引先はどうかという疑問が出ますが、本来職場のパワーハラスメントの定義としてはそれも含まれるのですが、今回はとりあえず職場の中のパワハラ防止に努めましょうということになりました。
次に注目してみたいのは「(2)職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に」という点です。つまり職務上の地位を利用して、上司から部下に対して行っているものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれることとなります。
「じゃあ、職務上の地位のほかに優位性って何か?」といえば、たとえばITの知識やスキルを持っている人が、持っていない人を馬鹿にするなど専門的知識の力や、宴会に1人だけ誘わないなど、集団で誰かをのけ者にするなどの集団の力を使って、相手より優位な立場にある場合を指しています。
なので、先輩と後輩、社員と派遣社員の間で行われるケースもあります。実際には“部下の女性に嫌がらせをされ、ノイローゼ気味になっている上司”もいます。だから、パワハラは誰もが被害者にも加害者にもなる可能性があるのです。
そしてパワハラの判断でもっとも影響するのが、「(3)業務の適正な範囲を超えて」ということでしょう。業務内容や地域、雇用形態などによって、判断基準に違いが出てくるので同じ一言でもパワハラになるかならないかは微妙に違いが出てきます。たとえば危険が伴う、あるいは肉体労働がある現場では大声を出したりすることもあるでしょうが、オフィスや接客の場では必要ない場合が多いでしょう。ということで、その職場の状況によって判断が分かれます。
そしてその結果、「(4)精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」を職場のパワーハラスメントとしています。
パワハラの具体例
では具体的にどのような行為をパワハラというのでしょうか。厚労省はその行為を6つに類型化しています。でもそれは明確な区分ではないし、たいていの場合複合的に行われている場合が多いこと、そして軽いものから重いものまでいろいろなケースがありますので、これも一概には決められませんが、少し、具体的な言動をあげてみましょう。
(1)身体的攻撃。殴る、蹴るなどの明らかな暴力は含まれることはもちろんですが、ヘルメットの上から頭をたたく、ネクタイをつかむ、小突くなど。またゴミ箱を蹴飛ばしたり、物を投げたりすることで、もしけがをさせてしまえば傷害罪にもなります。「冬に扇風機を当て続けた」なども身体的攻撃になるでしょう。もちろん、このような行為は犯罪であり、職場にあってはならないことはいうまでもありません。
(2)精神的な攻撃。例示されたように、脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言ですが、これはかなり幅が広いと思われます。同じバカヤローの一言でも、人によって受け止め方はさまざまでしょう。なのでこれは状況によって判断する必要があります。一般的にはそのような言動があった場合、脅迫や侮辱と感じるかどうかなどの客観的判断も必要になってくることでしょう。ここでは侮蔑の感情が交じっているとか、相手を窮地に追い詰めるような表現なども判断基準として検討する必要があると思われます。明らかな差別用語の使用はもちろんパワハラです。
(3)人間関係からの切り離し。隔離や意図的な仲間外しはわかりやすいのですが、「無視」の判断は難しいと思います。特に、人間関係が希薄になっている今、うっかり相手を無視しがちです。それ自体が職場の健全性からいえば問題でしょうが、忙しすぎるために相手への関心が薄れてしまう、配慮が欠けてしまう場合もあります。だからといってパワハラと言い切ることはできないでしょう。
(4)過大な要求。大量の仕事を突然一晩で仕上げるように要求したり、新入社員に対して達成困難なノルマを課すなどがあげられます。でもこの類の問題は判断が難しいところです。他者より少し仕事量が多い、少し難しい仕事を与えられた程度ではパワハラとは認定されないでしょう。
(5)過小な要求。まったく仕事を与えない、必要性がないのに紙を破るなどの単純な仕事を与えるなどがあげられます。これも程度や反復性、意図の有無などを検討する必要があります。この(4)(5)については、上司はうっかり指示している場合もありますので、とてもできない、あるいはあまりにも不当だ、と思ったら、素直に自分自身の状況を伝えることや、相手の意図を確認することが大切です。
(6)個の侵害。個人生活に不必要に踏み込むことなどがあげられます。たとえば不要不急のことで休日や夜間にメールや電話をするなど、あるいは個人生活についてあれこれ口出しをするなどもこれに当てはまるでしょう。
パワハラをしない、されないために
このように定義や類型化が行われても、パワハラ判断は難しいし、パワハラだとわかっても関係修復はできないケースがほとんどです。なので被害を受けてしまってからでは、たとえ相手が処分されたとしても、何も得るものはありません。
逆もまた悲惨です。そんなつもりはなくてパワハラをしてしまい、相手が病気にでもなってしまえば一生後悔することになるでしょう。
ではパワハラをしないために、また受けないためにはどうしたらよいのでしょうか。
どうもパワハラは仕事に精一杯取り組み、ぎりぎりのところで頑張っている人が起こしている場合が多いように思います。自分自身に厳しい分だけ相手にも厳しく当たる。自分に余裕がない時、つい相手を攻撃することで自分を守ろうとするように思われます。
ですから大切なことは、自分自身がゆとりを持つことです。そうすれば相手の立場や気持ちを理解して接することができるでしょう。
またパワハラを受けないようにするためには、その場にふさわしい発言や行動をすることです。人は違和感や不安を感じたとき、それを排除しようとします。
当たり前のようですが、相手に違和感を持たれないようにマナーを守ることや組織のルールを守ること、決められた仕事はきちんとこなすなどが大切です。そして、自分自身の状況を伝え、相手の状況を知ったうえで互いに調整しあう、そういう思いやりがパワハラを防いでいくことではないでしょうか。
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