13年には、拷問禁止委員会が従軍慰安婦問題について「日本の公人が事実を否定し、被害者を傷つけている」との懸念を示し、法的責任を公に認めることを始めとしたいくつかの勧告を出しました。この時、政府は「勧告に法的拘束力はない」として、従わない旨の答弁書を閣議決定しています。
ですが、法的拘束力はなくても、勧告に対する道義的な責任はあります。国連の人権に関するさまざまな条約委員会は、世界の国々がそれぞれの国において、すべての人の権利や尊厳を守るために作られた機関です。人権侵害や人種差別のない世界を実現することが委員会の目標であり、そのために各国から推薦され、国連で選出された委員が審査をしています。日本が人種差別撤廃条約に加入している以上、条約委員会の一つである人種差別撤廃委員会で示された勧告は尊重すべきものだと思います。
一方、政府が法的拘束力はないと軽視したとしても、このような勧告は、国内の差別の克服に向けた取り組みにおいて大きな力になります。NGOや市民社会組織が、課題を解消するための条例制定を目指して行政や地方議員に交渉をする場合に、「国連の委員会の勧告」があれば耳を傾けてもらえるからです。
人種差別撤廃委員会は、これまでと同様に今回の総括所見でも「次回の政府報告書の準備においてNGOや市民と対話し、協議するように」と勧告しました。政府だけで差別をなくすことはできません。行政、NGO、市民が広く連携し、さまざまな課題にいっそう取り組んでいかなければならないと実感しています。
「人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)」
人種差別撤廃NGOネットワーク(通称ERDネット。Japan NGO Network for the Elimination of Racial Discrimination):マイノリティー当事者団体および支援団体を中心とし、日本における人種主義・人種差別・植民地主義の撤廃に取り組む団体・個人の参加も得て形成される恒常的なネットワーク。
小森さんが所属しているNGO「反差別国際運動(IMADR The International Movement Against All Forms of Discrimination and Racism)」はERDネットの事務局を結成時の2007年から担っている。
ヘイトスピーチ
差別的憎悪表現。[hate speech]憎悪の念を込めた言葉を使う攻撃.文化的多元主義が広がる中で,少数派に向けて発せられる