原油価格の上昇で押し上げられる食品価格
原油価格の上昇は、トウモロコシから自動車燃料になるエタノールの精製を加速させ、食用のトウモロコシを減少させている。ロシアや中国などの経済発展は食生活を高度化し、食料需要を拡大させ、投資ファンドの介入やオーストラリアの干ばつなどの気候変動も重なり、「食料危機」が再来している。コメなどの穀物価格が急騰し、タイ、ベトナム、インド、中国などではコメの輸出規制政策が採用された。
食料不足が深刻なアフリカや中南米、アジアの発展途上国では、死者が出るほどの暴動が頻発し、現代の「米騒動」「食料危機」が、世界で同時発生している。そのためにも、予測できない要因で食料の供給が影響を受けることを想定して、食料供給を確保するための食料の安全保障が緊急の課題となっている。
08年6月、ローマで開催された食料サミットでは、食料不足国への緊急援助や農業生産の強化対策が議論された。サミットに出席した日本の福田康夫首相は、途上国の食料の増産を支援するために5000万ドルの資金と、政府が保有する輸入米30万トンを放出する、と述べた。しかし、穀物のバイオ燃料へのシフトチェンジは、アメリカをはじめブラジルに続き、中国、タイ、オーストラリアも追随する動きを見せている。1970年度の食料危機は80年代には解消したが、今回は長期化するだろう。
需給バランスの微動で乱高下する食品価格
2006年までは、「日本は工業製品を輸出し、安い食料を世界から輸入すればよい」という意見が、日本政府内や経済界では支配的であった。しかし、日本が議長国を務める08年7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)では、食料問題が緊急議題として急浮上してきた。食料高騰がインフレにつながり、世界経済の不安定要因になるからだ。いまや食料は世界から安価に輸入できない構造になっていることを認識すべきだ。そもそも食料は、貿易率(生産量に占める貿易量の割合)が低く、しかも需要の価格弾性値が小さいので、わずかな需給変動で価格の乱高下が引き起こされる構造的な特徴を持っている。ちなみに、貿易率は、自動車が46%に対してトウモロコシは11%、コメにいたっては7%に過ぎない(05年)。、
しかも輸出可能な国は限定されており、トウモロコシはアメリカに、コメはタイ、ベトナムなど少数国に特定されている。主要穀物の輸出は供給可能な数カ国の寡占体制になっており、食料の輸出規制政策は世界戦略の武器になり得る。
自然被害による供給力低下と日本の農業技術移転
FAO(国連食糧農業機関)の推計によれば、栄養不足人口は、現在、世界に8億6000万人で、しかもその90%以上が開発途上国に存在するが、東アジアを中心としていた栄養不足人口は、1980年代の農産技術、経済発展等により、減少してきている。しかし、中国では2008年5月12日に四川省を中心に大地震が、ミャンマーでは、08年5月2日にサイクロンが発生し、尊い人命が失われた。それと同時に貴重な財産である農地が機能不全に陥っている。
世界各地で頻発する災害や異常気象は、食料の供給力を低下させる。一刻も早く農産物の生産を再開できるように農地、水路、農道などのインフラの整備を図る必要がある。
日本の農業関係者が長年にわたって蓄積してきた農業技術を災害国に移転し、世界の農業生産力向上の再構築に役立てるべきである。そのようなODA(政府開発援助)であってほしい。
日本の食料自給率を引き上げる意義
世界の貧困国が食料を輸入できず、困難に直面しているにもかかわらず、自給率が39%しかない日本は、カロリーベースで61%の食料を海外に依存している。このことは、日本が減少しつつある世界の食料を優先的に買い占めており、意図に反して、結果的には貧困国の人々をさらに窮地に追いつめていることを意味している。2008年5月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD)において、日本はアフリカ各国に対して農業生産力の向上を支援すると約束し、アフリカに巨費を投入することにした。
一方、日本の食料自給率の向上対策は、はかばかしくない。00年に策定された第1回の食料・農業・農村基本計画において、当時40%の自給率を45%に引き上げる目標が明示された。だが、現実は逆に39%に低下している。
今後、日本は食料自給率を引き上げ、国際市場で貧困国の食料を奪わないようにすることが、先進国としての品格を保つことである。それが食の安全保障への第一歩である。
食料危機
異常気象による世界的な不作と旧ソ連の大量輸入から起きた、1970年代の食料不足時代。
食料サミット
2008年6月3日からローマで開幕した、国連食糧農業機関(FAO)が主催する首脳会合で、日本の福田康夫首相のほか、フランスのサルコジ大統領、ブラジルのルラ大統領ら約60カ国の首脳が参加した。
中国製冷凍ギョーザ事件
2007年10月27日に、宮城県仙台市の女性が、中国・天洋食品社製のギョーザを食べて異常に気づいたことから端を発した毒入りギョーザ事件で、08年1月30日、千葉・兵庫の両県警は、食品の一部から有機リン酸系のメタミドホスを検出したと発表。輸入した「ジェイティフーズ」と親会社のJTなどが、謝罪するとともに、ただちに天洋食品社の22品目を回収すると表明。
TICAD(アフリカ開発会議)
(Tokyo International Conference on African Development)
アフリカ諸国首脳と開発パートナーとの間の、ハイレベルな政策対話を促進するための、日本が主導する国際会議。第4回アフリカ開発会議は、日本政府、国連アフリカ担当事務総長特別顧問室(UN-OSAA)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行が共催者として共同実施され、2008年5月28日~30日まで神奈川県横浜市で開催された。
需要の価格弾性値が小さい
たとえば、コメは消費量がほぼ一定であるために、供給量が少しでも増えると価格が急落し、逆に供給量が少しでも減少すると価格が急騰する。