海原 「働きすぎ」とか「友だちがいない」とか、男性の問題が浸透しないのは、自分が壁にぶつかって挫折しないと、それが問題だったとはわからないからなんですよ。
田中 それこそ、定年になるとか病気になるとか。海原先生は「その前に立ち止まって、一度考えてみてはどうですか」という提案をされていますよね。
海原 そうです。そういう人たちが立ち止まって、考えて、回復して新しい人生を歩むようになったとき、自分のことを語ってくれれば、社会も変わっていくと思うんです。でも、心療内科に通っている人たちは、そのことをあまり語りたがらないんですよ。
田中 オープンにしていかないと、特にうつの場合は、当事者がつらいですよね。隠したままでは、わかってもらえないわけだから。
海原 語られなければ、社会でその問題を共有することができませんよね。なぜそうなったのか、どうやって回復してきたかという話をしてくれれば、多くの人が安心すると思うんですよ。あの人もそうだったのか、と。
田中 自分だけじゃないという安心は大事ですよね。ロックシンガーのダイヤモンド☆ユカイさんが自身の男性不妊について発言してますが、一昔前なら偏見にさらされた、男性の弱さの部分だと思うんです。でも、有名な人がオープンにしてくれると、当事者も勇気づけられるだろうし、社会もそういうことへの配慮も必要だと考えられる。男にも弱い面があっていいんだということが、少しずつでも広がっていくことが期待できますよね。つらい目にあってる人は「どうして自分だけが」って思いがちだから。
海原 人とそんなに深く関わってないから、人がみんな幸せに見えるんですよ。私は日々、そういう人とばかり関わってますから、講演会では「大丈夫、あなただけじゃないから。みんなすっごい大変なんだから」って言ってます(笑)。大変なことがあって、へこんでも、人には回復力があります。ただ、回復力というのは単一の力ではないんです。自分が持っているいろんな材料を総動員して、それを自分に吹き込みながら回復していく。だから、回復のプロセスは、人によって全部違うんですね。つまり、「へこんだから、こうすればいい」という処方箋や特効薬はないから、それを見つけるためには、人生をもう一度見直すことから始めなければならないんです。だけど、多くの男性は、すぐ効く特効薬を求めたがる(笑)。
田中 僕はドリンク剤が好きだから、耳が痛い(笑)。調子が上がらないときは、ドリンク剤よりも、休んだほうがいいんですよね。男性の働き方を変えようと言っている僕がそれじゃあダメですね(笑)。
海原 女性はそういうとき、マッサージに行こうとか、ひと泳ぎしてこようとか。私はそうやってリフレッシュしてますね。そうすると、ぐっすり眠れるし、起きたときスッキリして仕事に取りかかれますから。
田中 ちょっとファッショナブルなドリンク剤もありますが、結局は「ファイト一発!」とか「24時間戦えますか」という、お父さん時代のドリンク剤と変わってないんですよね。今日は僕自身が反省しながら帰ります(笑)。どうもありがとうございました。