料理の仕事を何十年もしてきた中で、ただおいしいものを作るとか、おしゃれな流行の料理を考えるとか、そういうことはもう十分にやったなあ、と感じて、「誰も飢えさせない」ということが、食に関わる私のテーマになってきました。
これって実はかなり大変なことで、平和じゃなければ食べものを生産してくれる人なんて、いなくなっちゃいますよね。経済格差が大きくなれば、飢える人も当然出てくる。経済や外交政策の失敗で食べものの値段がものすごく高くなるかもしれないし、農薬や遺伝子組み換え食品が心配で安心して食べられないということになるかもしれない。いつも冷蔵庫に食べものがあることが、当たり前とは限らないと思うんです。
だから、今一番言いたいのは、キッチンの窓を開けて社会とつながろうよ、ということ。消費者である私たちが、たとえば「遺伝子組み換え食品なんて買いたくない」と声を上げれば、十分に社会を変える力になります。私たちは、その力をもっと自覚したほうがいいんじゃないかな。「食」さえも利益優先のお金儲けに利用しようとする人たちがたくさんいる中で、私たちが台所にいるということ、そこからちゃんと声を上げていくことこそが、暮らしを守る「砦」になると思うんです。
〈東京アンブレラ基金〉
「誰も路頭に迷わせない」東京をつくるため、9団体協働で緊急一時宿泊時の宿泊費拠出と横断的な調査をおこなう基金。2019年に設立。
〈一般社団法人つくろい東京ファンド〉
2014年6月、東京都内で生活困窮者の支援活動をおこなってきた複数の団体のメンバーが集まり設立。代表理事は、稲葉剛さん。
〈NPO法人POSSE〉
2006年に設立された、労働相談、労働法教育、調査活動、政策研究・提言を行うNPO法人。
ビッグイシュー
ビッグイシューは1991年にイギリスで始まった事業。雑誌『ビッグイシュー』を発行し、ホームレス状態の人々にその販売の仕事を提供している。販売者は雑誌を路上で売り、その売上げの約半分を収入として得られる。『ビッグイシュー日本版』は2003年から発行。枝元さんは、『ビッグイシュー』誌上で「ホームレス人生相談×枝元なほみの悩みに効く料理」というページを連載している。NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表でもある。