誤解された婚活
2008年の暮れ、ふと夜中にテレビを見ていたら「婚活」番組をやっていました。その中でお笑いタレントの森三中の3人が「年収600万円以上稼ぐ男は3.5%しかいないから、はやいもの勝ちなのよ~」という歌を歌っていたのです。あわてて山田昌弘先生(中央大学教授、「婚活時代」共著者)にメールしてしまいました。
「大変、先生! 森三中がこんな歌を歌っています」
確かに山田昌弘先生の調査結果による「東京の600万円以上稼ぐ独身男性は3.5%しかいない」というフレーズは、この「婚活時代」ですっかり有名になりました。私も婚活という言葉ができる前から女性誌の取材などでも、いつも使っていました。それは、「養ってくれる男性」はもうほんの一握りしかいない、だから大勢が討ち死にしてしまうレッドオーシャン市場を目指さず、女性も働く覚悟を決めることで、結婚がしやすくなる……というメッセージだったのです。これからの「婚活力」は「女性の稼ぎ力」、特に08年9月のリーマンショック以降、ぶら下がり志向の女性は敬遠される……この方向性ははっきりしています。が、しかし、これではまるで婚活を提唱した趣旨と「逆の方向」にいっているではありませんか?
さらにリーマンショック以降、「早く結婚して安定したい」という女性たちが20代から40代まで婚活市場に参戦して競争は激化しています。お見合いパーティーや合コンのビジネスをやっている人は大盛況という状況があります。
こんなふうに婚活はブームなのですが、「誤解された婚活」という弊害もあります。
婚活に大切なのは意識の変換
山田先生の定義では、婚活とは「自分の魅力を高めたり、積極的に出会いの機会を作るなど、結婚を目的とした活動を意識的に行うこと」で、問題は“意識”です。婚活でもっともメッセージしたかったのは「結婚観の変革」。「誰でもいつか自然に結婚できる」「男性がメインで働き、女性が家事育児中心」という昭和的結婚意識に対する変革をしないと、もう結婚できないという現状を伝えたかったのです。しかし「自然は無理だからコンカツしよう!」と盛り上がったのですが、相変わらず古い結婚意識のまま「養ってくれる男性」を探す女子と、そんな女子にちょっと引き気味な男子という構図。古い結婚意識のままではいくらHOW TOを駆使しても、婚活で結果を出すのは難しいのです。結婚を遠ざける新種のコンカツ
婚活とは08年に急に起きたことではなく、やっている人は昔からやっています。ただ言葉ができたことで「前はコソコソしていたのですがやりやすくなりました。ありがとうございました」という声も多くいただきました。作家の林真理子さんがエッセーで「なんだ、私だってやっていた」と書いていましたし、アメリカの恋愛研究の人類学者ヘレン・フィッシャーさんも「人類は太古の昔からコンカツしていましたよ」と言っています。“自動的結婚システム”があった日本だけが婚活しない先進国だったのです。しかし私は2000年ぐらいから新種のコンカツ志向が台頭していることを発見しました。それはITバブル以降の意識変革です。ものを買うときに「価格.com」などで一気に検索するように「比較検討して一番いい結婚相手を選びたい」という意識です。「会社で隣に座った人が運命の人」でもバブルのころはよかったのに、2000年以降は「隣の人よりも、もっといい人がいるはず」という一派が台頭してきたのです。その手の考えを持っている人は、昔は男性だけで、毎週のお見合いパーティーに午前と午後ダブルヘッダーで出ているような医者、歯医者のような人たちがいました。しかし2000年以降はインターネットの世界で「一斉検索」が可能になり、婚活ビジネスとITの進化により、女性も参戦してきました。このような「コンカツ」は一気にブームになりましたが、一斉検索できても、デートは1回に1人ずつしかできません。莫大な時間とエネルギーがかかります。さらに、選択肢が増えるほど願望の実現は難しい……これは社会学の論理です。「究極の一品」を探すとなると、どんどん年齢が上がって自分の市場価値そのものが変化するリスクもある。婚活ビジネスの台頭が、毎週末でも新しい人に出会えることを可能にしたがゆえに、こんな落とし穴もあるのです。
婚活vs.恋愛ではない
「婚活」=「条件だけで結婚相手を選ぶ活動。恋愛とは両立しない」という誤解も多いのです。20代女性など「結婚と恋愛は別」とはっきり割り切っている人もいます。しかし世間の誰もが「条件とトキメキ」の両立する相手に出会うために苦労しているのです。決して「恋愛」部分を甘く見てはいけません。「条件」だけ整ったお見合い結婚で、交際期間もろくにないまま結婚するようなまねができるほど、現代女性はドライではないし、条件だけ良くても「トキメキ」が共有できない相手と生活できるほど、我慢強くもないのですから。恋愛ベタな日本人に必要なツール
しかし婚活ブームになってよかったこともあります。それは独身男女の「出会いの場所」が増えたことです。ビジネスだけでなく、独身男女がいれば「紹介してあげる」というおせっかいな人も増えたし、飲食店のオーナーが主催する婚活パーティーもあります。果ては「朝婚活」(朝のビジネス街などで出勤前に行う合コン)や、「農業合コン」(農作業ボランティアをしながら行う合コン)、婚活映画試写会、婚活野球観戦シートもあります。いずれにしても、今までフリーズドライ状態だった「結婚」に、みなが目を向け始めたのはよいことでしょう。「今の結婚制度は使い勝手が悪い」などという声があがることもあるでしょう。もうひとつは地方自治体主催の地味な未婚者支援事業も「婚活」というキーワードで注目されるようになったことです。地域の青年団や農業後継者の嫁探しは昔から行われていますが、広報活動が弱いことから、地元の人でも「そんな催しがあったのか?」というほどです。貴重な税金を投入する事業なのですから、大いに注目され、利用されてほしいものです。
婚活とはもともと「恋愛ベタ」な日本人が恋愛するのに欠かせないツールです。多分先に見える「結婚」というゴールがなくては、恋愛低体温の今、ガツガツ恋愛したいという人は少ないでしょう。これを機に日本人の恋愛温度が少しでも上がることを期待します。