この店で印象的だったのは、奥に海賊の宝箱のようなものが蓋を開けたまま置かれていたことだ。中が青白く光り輝いている。触るとひんやり冷たい。すぐにわかった。そう、『百年の孤独』で語られる、アウレリャノ少年を魅了した氷が入っていたのだ。子ども騙しのファンサービスではあるけれど、笑えると同時に店の遊び心を好ましく思った。

店内に置かれた青白く光る箱 撮影:篠田有史
店内にはステージがあり、ステージの背後はアンリ・ルソー風の壁画になっている。テーブルには花やキャンドルではなく、さまざまな獣の被り物が置かれているのも印象的だった。これはバランキージャのカーニバルを連想させる仕掛けだ。ステージのピアノにも黄色い蝶の群れが飾られていた。こちらをその気にさせる演出が心憎い。それならば、と向こうのテーブルの客が飲んでいる、いかにもという黄色いカクテルを注文した。黄色のカクテルは甘く、予想どおり、ドライフルーツの蝶をあしらった飾りが付いていた。この地域のノリがだんだんわかってきた。味付けの濃い魚や肉、ソーセージ、それに必ず付いてくるパタコンつまり潰した青バナナの素揚げが山盛りの大皿と格闘していると、バンドの演奏が始まった。
カルテットは、ピアノの他にギター、パーカッション、フルートという編成で、聞けばボーカルでフルートも吹く、ボテロの描く人物を思わせる恰幅の良い女性はキューバ人、男性たちは地元のコロンビア人だという。なるほど、演奏した曲の中に「ソン・デ・ラ・ローマ」があり、そのとき彼女は拍子木のようなクラーベを叩いていた。これはキューバのトリオ・マタモロス作の名曲で、ハバナに行ったときにはリクエストすれば、あちこちのレストラン、食堂でどのグループも喜んでこの曲を演奏してくれた。でもまさかバランキージャでも聞けるとは思っていなかったので、結構感激してしまった。

店内ステージでの演奏 撮影:篠田有史
店の壁に掛かっている肖像画のガルシア=マルケスと目が合う。隣のテーブルで、バンドの演奏に合わせ、足でリズムを取っていた男性は、そのうち同伴の女性の手を取り踊り始めていた。身体を密着させる濃厚な大人の踊りだ。他のカップルも踊っている。足の動きが悪くなければ、僕も踊っていたかもしれない。こうして金曜の夜は更けていく。明日はいよいよアラカタカ行きだ。
連載「黄色い蝶に導かれて 2025年ガルシア=マルケスの土地を訪ねる旅」
●目次
第1回 ボゴタ
第2回 シパキラ
第3回 バランキージャ
第4回 アラカタカ 1/30公開
第5回 リオアチャ 2/6公開
第6回 カルタヘナ・デ・インディアス 2/13公開
第7回 メキシコシティふたたび 2/20公開