「街の本屋」の苦境は、「読書離れ」を象徴する現象の一つである。2003年度に全国で約1万3600店あった書店数は2024年度には7673店にまで減少、書店ゼロの自治体は27.9%(2024年8月時点)に達した。こうした状況に歯止めをかけるべく、経済産業省は2025年6月に「書店活性化プラン」を公表、官民連携での支援策を検討しているが、海外では既に政府による「書店活性化」「読書支援」がさまざまな形で進められている。日本の状況との違い、これらの取り組みで日本でも有効なものは何か、また日本で行われている取り組みの可能性などについて、2025年夏にフランスの出版・書店支援事情を視察した柴野京子・上智大学教授にうかがった。
「本は文化」を前提としたフランスの書店支援
――書店の危機は世界共通の現象で、海外では書店支援や読書振興の政策がさまざまな形で実施されていると聞いています。フランスに視察に行かれたそうですが、実際にどのような支援が行われているのでしょうか。
まず、書籍に軽減税率が適用されています。日本の消費税にあたるフランスの付加価値税(VAT)は通常20%ですが、書籍では5.5%に抑えられています。軽減税率は国によって違うものの、フランスだけではなくヨーロッパをはじめ多くの国でも同様の制度が導入されています。
フランスの書店支援政策で有名なのは、本の無料配送を禁止する、通称「反アマゾン法」(ダルコス法。2014年成立)です。チェーンに属さない「独立系書店」の保護に焦点を当てた法律としては、1981年に成立した「ラング法」も挙げられます。この法律は、家電等の量販店が書籍の価格を大幅に割り引いて販売したことをきっかけに制定され、書籍の割引率を定価の5%以内とすることを義務付けています。
フランスでは、出版や書店に関する政策は国(文化省)の管轄です。文化省直轄の国立書籍センター(CNL:Centre national du livre)という組織があり、フランス各地に配置された地域文化局(DRAC:Direction régionale des affaires culturelles)という出先機関と連携しながら施策が進められます。ちなみに、フランスでは書籍の経済支援策として5070万ユーロ(1ユーロ=185円換算で93億7950万円)の予算(2024年)が計上されており、そのうち2850万ユーロがCNLに割り当てられ、著者、出版社、書店への支援および本に関するイベント開催等への助成金に使われています。
――予算額の大きさに驚きますが、なぜ書籍の経済支援にそれだけの財政支出ができるのでしょうか。
今回の視察で非常に印象的だったのは、「なぜ書店を支援しなければならないのか」という問いそのものが必要ない、ということでした。「書籍は文化財である」「書店は守るべきだ」という前提が出版や書店関係者だけではなく、社会全体で理解されていると感じました。これは、書店事業者自らが書店保護の根拠を示し、世論を納得させることから始めなければいけない日本との大きな違いと言えるでしょう。
「書籍=文化財」という考え方を強く感じた場所が、フランス国立図書館(BnF:Bibliothèque nationale de France)でした。1368年に設立されたこの図書館は、「世界三大図書館」の一つとされ、1990年代に世界で最も早く蔵書のデジタル化を進めたことでも有名です。BnFの視察では、中世からの書物とバンド・デシネ(Bande Dessinée)や日本の漫画の話が地続きで語られ、連綿とつながるフランスの書物の歴史をまざまざと実感しました。蔵書のデジタル化も単なる保存ではなく、現在と地続きの歴史の層を可視化し、未来に向けて活用しようということだと思います。

フランス国立図書館の内観(写真:AP/アフロ)
フランスの書店支援でもう一つ着目すべき点は、「文化的多様性」の担保という観点で政策が実施されていることで、そのベースとなっているのが2005年のユネスコ総会で採択された「文化多様性条約」です。書籍市場で文化的多様性が実現しているかどうかは、「流通チャネル」「生産される出版物のカテゴリー(ジャンル)」「事業者の規模」「売り上げの中でベストセラー、大手事業者の占める割合」という指標で測られ、これらの数とバランスが多様性を実現していないとなれば、必然的に個人や小規模事業者に保護的な施策が執られます。この「文化的多様性」の基準は非常に明快で、最終的なゴールは「文化的多様性」から生まれる文化の「独創性」にあるということにも、感銘を受けました。
ちなみに、「文化多様性条約」が策定された背景には、アメリカ文化が牽引するグローバリゼーションに抗し、各国の文化的独自性を維持するという意図があります。日本は同条約を批准していませんが、日本の書店は中小事業者が圧倒的多数であることを考えると、「文化的多様性」という文脈には参照すべき点が多いと思います。
――書籍や書店の捉え方の違いはありつつ、日本でも取り入れられそうなフランスの取り組みはあるでしょうか。
例えば、CNLによる独立系書店の認証制度があります。認証には2種類あり、一つは小規模な独立系書店が対象の「Librairie Indépendante Référence(LIR)」、もう一つが大規模な独立系書店に発行される「Librairie de Référence(LR)」で、認証によって店頭等に掲示できるラベルが発行されます。認証を受けるには一定の基準を満たす必要があり、認証ラベルを取得している書店は豊かな品揃え、質の高い選書や接客、またイベント企画や地域文化への関与等が認められたという、いわばお墨付きを得られます。認証は3年間有効で、助成や税制優遇を受けやすくなるのに加え、店の特性が出版社や顧客に可視化されるメリットもあります。こうした認証制度は、日本でも導入できるのではないでしょうか。

パリの大型独立系書店「ici LIBRAIRIE」(著者提供)
もう一つ参考になりそうなのは、「カルチャーパス」という、若者の文化活動を支援する制度です。2021年に導入され、2025年時点では17歳(50ユーロ)、18歳(150ユーロ)に専用アプリを通して、文化活動の費用が支払われます。受給者は映画や文化的催しなどにもこのお金を使うことができますが、支出額の42~55%は書籍購入だったそうです。日本で同様の取り組みをするのであれば、入学祝いや卒業祝い等で自治体が若者に図書カードを配布するといった方法が考えられます。これは、地元の書店支援にもなるでしょう。あるいは、0歳児健診時などで自治体が絵本をプレゼントする「ブックスタート」を、若者版にアレンジするということもできそうです。