――「彼氏、夫から避妊をしてもらえない」「離婚をした途端に、女に戻ったねと言われた」。
雨宮 避妊してもらえないって、それはもう完全にDV。国によっては刑罰の対象のはずですよ。女性に許可なく避妊に協力しないのは、スウェーデンなどでは性的虐待とされることがある。日本の場合は全く放置されている状態なので、それはDVだっていうことを認識してもらいたいです。
北原 ドメスティックバイオレンスにおいては、家庭内のセックスの問題がすごく大きくて。暴力を振るわれる原因の一つは、セックスの拒否だったりする。避妊してもらえずに、意に反して何人も子どもを産まざるを得なくなったとか……こういう家族やパートナー間の性の話はなかなか表に出てこない。そういった面のDVは今も変わらず存在していますね。
――(会場からの質問)セクハラ問題などが社会で大きく取り上げられると、どんなに立場がある人でも、社会的に追いやられることがある。最近それが分かって、すごく勇気付けられました。ただ、女同士で私がそういう発言をすると「意識高いよね」と言われて終わってしまう。女性なのに、女性の苦しさに共感してくれない、そうやってセクハラの被害者を切り捨てられると、つらいです。そんな堅いこと考えずにもっと楽しいことしよう、みたいな感じに言われます。どうしたらそういう女友達に興味を持ってもらえると思いますか?
北原 そういう「意識高いよね」とかで切り捨ててしまう女性って、セクハラが自分にも降りかかる暴力なんだと、本人が気付かない限り変わらないよね。大事な友達なのに、話が通じなかったりすることってある。つらいけど。
例えば、「絶対結婚しちゃダメだろう」という男を女友達が選ぼうとしている。それを友達に忠告したりもするけど、本当は友達も彼がダメ男だと分かっているんだよね。なのに、5年後、10年後の自分の経済状態への不安とか、孤独な女になるかもしれないという恐怖が植え付けられていて、「一人になるのが怖い、結婚できないのが怖い……だったら、セクハラくらい目をつぶろう」ってことになっている。そうやって、100年以上前から女たちは我慢してきたんです。
でも、少しずつだけど変わってきている。言葉を持ってきているし、こうやって集うこともできるし。
田房 そう思います、私も。「女性専用車両に乗り込んでくるおじさん」の騒動は、10年くらい前からあった。でも、当時はネット上にいる数少ない「痴漢犯罪に怒っている人」たちだけが知っていることだった。私がその件についてツイッターとかで発言しても、「痴漢犯罪に怒り、被害をなくしたいと思ってる女性VS女性専用車両反対&すぐ冤罪って言うおじさん」という、ものすごく人数が少ない所で話されるだけで終わりでした。
なのに今は、昼間のワイドショー『グッディ』とかでそのニュースが取り上げられるようになったんですよ。もうほんと変わった! #MeTooの影響もすごく大きいと思うし、ああいうふうに声を上げるっていうのはやっぱり意味あるんだなと思いました。
雨宮 #MeTooは今後どうなってくと思いますか。
田房 #MeTooという言葉を使わなくても、女の子が性犯罪に遭ったとか、何かしらのニュースが出る度に、「私にもこういうことがあった」と女性たちが性暴力や幼児虐待の体験をSNSなどで語り出している。自然な流れとして、それができるようになった。自分の体験を漫画とかエッセーとかで表現して、みんなと共有できている。体験を語るというのが、一種のコンテンツのようになっていますよね。この変化はとてもいいことです。
自分が自由であるために。男性にも変わってもらおう!
北原 私の小学校三年生の時の先生が本当にクソだったのね。今から思うと、セクハラだったんじゃないかと思う。可愛い女の子を膝に乗せてるような人だった。
雨宮 エーッ。
北原 たぶんロリコンだよね。その先生が本当に嫌いで、気持ち悪くて。で、その先生は「男子は女子を呼び捨てしていいよ」とか、「女子は男子を君付けで呼べ」みたいなことを平気で言う人でした。私は、当時学校に通うのがすっごい苦しかったんです。
その時にちょうど、四年生になったくらいでしたけど、市川房枝さんが亡くなった。市川さんは日本を代表する女性の政治家で、女性の参政権運動に尽力した人です。彼女が亡くなって、毎日のように市川房枝特集みたいなことをテレビやその他のメディアでやっていた。そのおばあさんの話を読んで、私はすごく元気になったわけ。
女の人が、それもおばあさんがこんなにカッコいいと称えられることがあるって、私、それまで知らなかったし、「女は男よりも一段低いんだ」みたいなことを学校の先生が言うような中で、こんなカッコいいおばあさんがいる! って気付いた。だから、女たちの歴史とか闘いって、ちゃんと伝えていかないといけない。今、市川さんについては教科書とかにも載っていないらしく、20代の女性たちは名前も知らないと聞きます。女たちの歴史って、こんなふうに消えていってしまう。呪いにかからないようにするには、自分を信じるとか誇りを持つことが大事。そのためにも、女の歴史を知ることは意味のあることだと思います。
フェミニズムってどういう思想かなと考えてみると、私は、その人自身が自由であることだと思う。その一方で、これまで死んでいった女たちの悔しさの声を聴くことも必要なんです。差別に遭ったり、強姦されたりして、物も言えずに死んでいった女たち……悔しい思いを抱えてきた女たちの声を聴くのが、私たちの仕事だと思う。そして皆さんも日常の中でできることがきっとあるはず。
雨宮 「呪いの言葉」の解決法というか、対策を考えた時に、男性が変わるために、こちらから男性に言い返す言葉があればいいなと思っています。
「若くて可愛い女にしか価値がない」と男尊女卑的なことを言う人には、そういう人って「働け、稼げ」という圧力にさらされていることが多いので、年収の話を持ち出すと効くんですよ。「年収●●円以上の男しか価値がない」とか言ってみて、ほら、そういうことを言われたらイヤでしょう? と。それをきっかけにしたいけど、上手に返さないとお互いに言い合いになって「へこます作戦」になっちゃいますね。
やっぱり(私たちはこれまで)一言で黙らされてきたじゃないですか。女への「呪いの言葉」って、ブス、ババアを始めとして、「家事ができないからダメだ」とか、「そんなこと言ってるとモテない」とか、「女は若くて可愛い子がいい」とか、一言でこてんぱんに打ちのめされるような言葉を私たちは浴びてきた。それに対して、こちら側からの一言で反撃できる強烈な言葉はまだ生みだせていないんですよね。しかも、それが男性にとって考える契機となって、自分たちにも「男性への呪い」があると気付いてくれるような、奇跡の一言があればいいですよね。
今日、お二人とお話しして、いろんなヒントをもらいました。ありがとうございました。