いったいなぜ、ハイブリッドカーはこれほどまでに売れるのだろう。
理由のひとつに、麻生太郎内閣の目玉のひとつ「エコカー買い替え補助金」があることは確かだ。5月29日に成立した補正予算案に組み込まれたこの制度は、早ければ6月中にも実施される予定で、今年4月10日から来年3月までエコカー、つまりハイブリッドカーを購入し、新車登録した人は最大で25万円の補助を受けられるとか。そうなれば、車の買い替えを予定している人は「じゃ、ハイブリッドにしておこう」と考えても不思議ではない。
しかし、それだけで一般の車に比べて決して安いとはいえないハイブリッドカーにユーザーが殺到するとは、とても思えない。ここにはやはり、何らかの心理的な動機が隠れていそうだ。
誰もがすぐ思いつくのは、「ハイブリッドカーを選ぶことで、“環境にも気くばりをしている私”というイメージを得たいのでは」ということ。これは何も、周囲にそうアピールしたい、人にそう思われたい、ということだけではない。昨年来の不況で、仕事がうまくいかなくなったりリストラされたり、と自信を失いがちな人も多い。“婚活”ブームも、結婚していない、恋人がいない人たちにプレッシャーを与え続けている。
そんななか、せめて毎日の通勤やレジャーで車に乗るときくらい、「そうだ、私は環境への配慮を常に考えている人間なんだ」とささやかな自負心を感じたい。意識はしなくてもそういう思いから、この新しいハイブリッドカーを選択する人も少なくないのではないだろうか。
つまり、ハイブリッドという付加価値が、それに乗る人の価値も知らないうちに高めてくれる、ということだ。そしてそれを購入する人は、どうせ買うなら「新車」でしかも「ハイブリッド」という二重の付加価値を持った今回の車にしたい、と考えるわけだ。
それにしても、「時代は変わった」と思わずにはいられない。なぜなら、ただ「車を持っている」ということだけでは、この時代、少しも自分の価値を高めることはできないのだ。それどころか、もしかすると「車って経費もかかるし、もしかして経済観念のない人なのでは」「CO2をまきちらしても平気、ということは環境に無関心な人かも」とマイナス要因にさえなりかねない。「クルマさえ持っていれば若い女性にもモテた」などという時代は、遠い過去のことなのだろう。
そういうなかで唯一、「この人ってきちんと環境問題も考えているんだな」「ムダに大きな車を買う人より知的な感じ」と自分の価値を高めてくれる車が、コンパクトなハイブリッドカーというわけだ。自動車業界がこの分野に賭けようとしているのも、無理はない。ただ、業界が狙っているようにハイブリッドがほとんどの車のスタンダード仕様になったら、もう「他とは違う車を選ぶ自分」という付加価値はなくなってしまうことも忘れないほうがよいと思う。
そして大切なのは、ハイブリッドカーで自分の価値が高められ、自信がよみがえった人たちが、それを“車を降りたあと”にどう生かすか、ということだ。エコカーに乗っていても実生活ではエアコンつけっ放し、ゴミ出し放題、では意味がない。アップした自信で環境のため、まわりの人のため、ぜひ活躍してほしい。
ちなみに今回の補助金のために予定されている予算は、約3700億円。予定台数の約280万台が終了すれば、事業の早期終了もあり得るとか。購入を予定している人は、どうぞお早めに。