飲酒率というのは、過去1年間に1回以上飲酒した人の割合。全体では、男性83.1%、女性60.9%で、5年前に行われた前回調査よりダウンしている。ところが、20代前半の女性は、80%から90.4%に急上昇。同年代の男性の83.5%を、大きく上回ることになった。しかも、多量飲酒や寝酒も、この年代の女性では増加傾向にあることが明らかになっている。
女性が深酒だなんて」と眉(まゆ)をひそめる人もいるかもしれないが、この数字を肯定的にとらえることもできる。女性の社会進出があたりまえのこととなり、職場でも男性と完全に対等となったため、宴席でも女性は従来の「お酌係」から「飲み係」に。その結果として、飲酒の機会や量が増えた、と考えることもできるからだ。
とはいえ、そうだとしたら男女の飲酒率はほぼ同じ、でいいはず。女性のほうが大きく男性を上回る、という結果は、やや不自然な印象も受ける。
飲酒に限らず、いまパチンコに代表されるギャンブルに夢中になる女性、さらには最近、問題になっている違法な薬物にまで手を出してしまう女性の増加が、精神医療の現場でも大きな問題になっている。お酒、ギャンブルなどに手を出すと、女性は男性よりも短期間に依存症の域に達してしまうことが知られている。これが脳の構造などの身体的な違いによるものなのか、心理的な問題なのかは、まだはっきりしていない。
ただ、診察室で見ていると、今の20代、30代の女性たちは、これまでにはなかったストレスにさらされているのを痛感する。これまではその世代の女性たちは、「仕事派」と「結婚派」にはっきり分けられていたが、今は「ワークライフバランスこそが大切」という合言葉のもと、「仕事も結婚も、そして出産、育児も」という生き方が当然という雰囲気になっているのだ。
しかし、仕事を覚えるだけでもやっと、という20代の女性たちにとって、それに加えて結婚相手を探し、さらには計画的に妊娠したり出産したりしなければならない、というのはたいへんなこと。職業人としても“お相手募集中”の女性としてもいつもテンションを上げ、気を抜かずに日々を送るうちに、「ここから逃避したい」とついお酒やパチンコに走ってしまう女性たちが増えていても、決して不思議ではないと思う。
そして、がんばった結果、予定通りに結婚、出産を遂げた後は、さらにさまざまなストレスが待っている。「私、何のためにここまで努力してきたの?全部、手に入れたのにむなしいのはなぜ?」とエアポケットに陥る30代も、“依存症適齢期”なのだ。
酒には飲まれるな、とは昔の人はよく言ったもの。会食を円滑にするために、一日の緊張を解くために、欠かすことのできないお酒だが、日々のストレスから逃げ込むための飲酒は、まさに「飲まれる酒」。女性たちを恐ろしい依存症から防ぐためにも、「さあ、20代のうちに仕事も結婚も出産も」と社会全体で追い立てる雰囲気を、何とかしなければならないのではないだろうか。
総選挙の各党のマニフェストを見て20代のシングル女性がぽつりともらした。「子育て支援、か……。私も早く出産して、この支援を受けられる立場になれ、ってことだよね」。まじめな彼女が、このプレッシャーから逃れるために酒やパチンコにのめり込まないことを祈るばかりだ。