驚いたことに、70日近く限界状況での生活が続いたというのに、ほとんどの人が身体的にも心理的にも健康な状態だった。数人を残してほぼ全員が入院の必要もなく、簡単な検査を経て自宅に戻ったという。
誰もがまず思うのが、「どうしてあんなにタフなのか」。そこにはいくつかの要素が関係しているだろう。
まず考えられるのは、「チリ人の国民性」。雑誌や新聞によると、この国の人たちは実は冷静沈着でまじめ、規律をきちんと守るタイプが多いのだという。だから地下での生活でもパニックに陥ることなく、自分たちで決めたルールに従って日々をすごすことができたのではないか、というのだ。
もしそうだとしたら、日本人も同様の状況には強い、ということになるだろうか。学生たちにきくと、「とても耐えられない」という声が多かった。「33人で狭い部屋…考えただけでも滅入りそうです」「いつまでお風呂に入れないのか、と思うだけで息がつまりそう」「もう助からない、と泣き続けると思う」。いくらまじめで規律正しくても、悲観的に考えてしまい自滅する、という人がけっこういそうだ。そういえば、出口の見えない不況のトンネルの中、ストレスからうつ病になる人が急増している現状を見ても、「まじめな日本人は限界状況に強い」とはとてもいえない。
チリの作業員たちの場合、「まじめで規律正しい」という以外に、やはりいわゆる“ラテン系”の気質も関係していたと思われる。前向きで明るく、「もしまた落盤したら」「酸素が足りなくなったら」と悪いほうに考えてクヨクヨしたりしない。「きっと助かるさ」と信じ、「クリスマスは地上で楽しくすごせるよ」と、とにかく“よい未来”だけを考える。さらにそのラテン系気質を、「神さまが僕たちを救わないわけはない」という信仰の力も支えていたと思われる。
そして、33人は互いに不信感を抱き合うこともなく、統率の取れた行動を取り続けた。勝手な行動を取る人やパニックに陥る人もいなかった背景には、鉱山のプロとしての高い意識もあったのだろう。
さらに地下の彼らによい影響を与えたのは、地上の家族たちの「あせらない」という姿勢だ。地下の夫や父親を心配しながらも笑顔を忘れず、どこかのんびりさえして見えたのが印象的。もちろん緊迫する場面もあったとは思うが、待機するキャンプの名前からして「希望(エスペランサ)」とあくまで前向きだった。
このように、いくつもの要素が積み重なって今回の“奇跡”は起きたと考えられる。
もちろん、これは遠い異国の話であるが、私たち日本でもここから学ぶことは多い。いちばん大切なのは、「みんなで力を合わせれば必ずなんとかなる」と互いを思いやる気持ちを忘れず、心にゆとりを持ち、苦しい中でも楽しみを見つけてすごすことが、良い結果を招くということではないか。必要以上に悲観的になったり、「自分だけ助かりたい」と抜け駆けを試みたりすることは、結局は自滅につながってしまうのだ。
救出された作業員に関しても、早くもこれから心の傷の後遺症が起きるとか、いきなりヒーローになって人生がおかしくなる人もいるとか、不安材料をあげて語る人もいる。まずその態度から改めて、「きっと彼らにはすばらしい人生が待っているはず」と祝福してはどうか。「なんとかなるはず」と希望とゆとりを持って、自分と仲間を信じる。これこそが本物のポジティブシンキングなのではないだろうか。