20代など上の世代から見ると夢いっぱいの年頃に見えるのに、なぜ若者は「生きづらい」と思うのだろう。仕事がないからか、それともなかなか結婚できないからなのか。
そのヒントが、最近、話題になっているある白書に記されている。路上生活者に雑誌を販売してもらい、仕事を提供して自立を応援する事業「ビッグイシュー」は、いまでは多くの人に知られる存在となった。そのビッグイシュー基金が、このたび『若者ホームレス白書2』をまとめたのだ。その冒頭には、2008年のリーマン・ショック以降、40歳未満の若いホームレスが急増している、という衝撃的な事実が記されている。
それだけを見ると、「ほら、やっぱり若者の生きづらさの最大の理由は雇用の問題にある」と考える人もいるだろう。また、「たしかに景気は悪いかもしれないが、やる気になればなにかあるはず。ちょっと甘えているんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。しかし、この白書からは単に「仕事が足りない」でも、「やる気がない」でもない、路上生活を余儀なくされている若者たちの複雑な事情が浮かび上がってくる。
意外に感じるかもしれないが、20代、30代のホームレスの多くは、就業経験どころか正社員の経験も持っている。「最初からやる気もなければ経験もない」わけではない。では、なぜ仕事が続かないのか。白書に取り上げられているある若者は、過去に仕事で受けたトラウマがもとになり、働くことが怖くなった、と述べている。その仕事を退職してからは、仕事そのものや人間関係に対する恐怖があり、身動きが取れなくなっている。会社でいじめを受けた、という20代の若者はこう語る。「ホームレス状態でいることはもちろんイヤ。でもそれと同じくらいの恐怖が働くことにはある」
いったんそういう状態になると、彼らはどんどん人間不信に陥っていく。しかも、彼らが信じられないのはまわりの人だけではない。「これじゃダメだ」と自分を責めているうちに、次第に自分を信頼することさえできなくなり、自己肯定感はみるみるうちに低下する。そして、「自分なんて生きているだけで迷惑だ」「誰も私を必要としている人はいない」と確信して、ある若者はホームレスになり、別の若者は自殺未遂を繰り返すようになるのである。
つまり、冒頭で紹介した「生きていたくない」という若者たちも、仕事も家も失いホームレスになっている若者たちも、いずれも本質にあるのはこの「自分と他者への信頼感の低下」なのだ。
先の白書では、「若者がホームレス状態から脱出するためには、仕事や住まい、準備資金などを与えるだけでは不十分だ」と繰り返される。彼らに必要なのは、もう一度、世間や他人、そして自分のことを信じる気持ちを持ってもらうことなのだ。そのために大切なのが、「居場所と出番」だといわれる。白書の中では、「ビッグイシュー」の販売員になり、そのサッカーチームに参加して「ホッとできる場所があるっていいな」と立ち直り始めた若者も紹介されている。
若者に「居場所と出番」を。ただ雇用を作って「あとは自分で」と放り出すのではなく、若者に「人っていいな、生きるっていいな」と思ってもらうために、社会ができることは何か。真剣に考えなければ、この国の未来はないだろう。