最近は、石原慎太郎東京都知事の尖閣諸島購入発言を支持する人々が20日間で7億円近くの寄付、というニュースを見てもわかるように、より保守色の強い姿勢が支持される傾向が強まっている。市議団の狙いも、おそらく発達障害うんぬんよりも「わが国の伝統的子育ての復活」を強調しようとしたのだろう。とはいえ、そこで子どもの成育環境や親の育児法とはまったく関係ない、脳機能の問題である発達障害を持ち出すのは、あまりにも無知だ。
飛ぶ鳥を落とす勢いの「大阪維新の会」だが、さすがにこれには全国から保護者、教育者や「親の会」などの団体の抗議が殺到し、市議団は白紙撤回することを約束した。
この発達障害に関しては、医学的にもまだはっきりしない部分もあり、診断基準や治療指針についても検討が重ねられている。とくに原因に関しては、神経内分泌系の調節障害、神経伝達物質の代謝障害、セロトニン転送遺伝子の異常などが示唆されているが、いまだに決定的な原因が絞りきれていない。また、脳の画像診断の進歩に伴い、障害のある部位を探る研究が進められているが、皮質下・前庭系・網様体賦活系・基底核・小脳などの関連が推定されてはいるものの、これでは部位の特定にはほど遠い。
こういった状況を受けて、自分の子どもが発達障害と診断された、あるいは乳幼児健診や幼稚園の先生などから「その可能性があるから専門医を受診して」と言われた保護者たちの不安が大きい。私の患者さんでも、子どもが発達障害と診断されたとたん、夫の実家から、「ウチの家系にはそんな子どもはいないから、あなたの家系に問題があるのでは」と責められ、うつ病になった女性がいた。「遺伝子の異常説はありますが、単純に家系内で遺伝するようなものではありません」と説明しても、不安でいっぱいの保護者は「やっぱり遺伝なんですか」とさらにパニックに陥ることもある。
この状況は、誰が考えても子どもにとってプラスではないことは明らかだろう。いろいろな主張がある専門家たちも、この点に関しては一致した見解を持っている。いかなる場合でも保護者が適切なサポートを受け、安心して「子どもとのかかわりを楽しむこと」、それが子どもの適切な発達のために最も必要なのだ。
そんな中で「発達障害の原因は愛着形成の不足」などという誤った情報が、たとえその後、撤回されたにしても、一定期間、流れたというのはたいへん深刻な問題だ。人間は「ほら、やっぱり」と一度、思い込んでしまうと、その後、いくら情報の発信者が「私の間違いでした」と否定、撤回しても、そのまま思い込み続ける性質を持っているからだ。これまでもそうやって信じられ続けた誤情報が、いわゆる都市伝説などと呼ばれていくらでも流布している。市議団はこのことを重く受け止め、今後、もしまた家庭教育支援条例案を提案することがあるとするならば、子どもが発達障害であるかどうかにかかわらず、すべての親たちを最大限サポートする体制を作ることに全力を注ぐような案にすべきであろう。