それによると、文部科学省は「35人以下学級」の実現を目指し、少子化の影響もあって達成されている学校も少なくないが、その「政策効果」が明らかではない、と言うのだ。
この場合の「政策効果」とは何か。ひとつには「学力向上」である。財務省の資料によると、文科省は「平成25年度全国学力状況調査においてきめ細かい調査を行う」としているが、「学級規模と学力との関係」についての検証には触れられていない。
また、これまでの国際的な実証研究でも、「学級規模の縮小はこどもの学力向上と相関関係がない」という研究が通説になっている。さらに、日本の都道府県ごとの実績を見ると、学級規模は学力のみならず、いじめや不登校の発生件数とも相関関係は見いだせない、ということが明らかになっている。
つまり、これ以上、教職員を増やして少人数学級化を進めたとしても、どうもその分の支出に見合っただけの学力向上やいじめの抑止などは見込めないのではないか、というのが財務省の考えのようだ。それよりも、スクールカウンセラーなど外部の人材の活用に支出をまわすほうが「財政健全化」だとも主張している。
テレビのニュースでこれを見たとき、私は「教職員をさらに削減! まさか」と思わず声を上げてしまった。この案を考えた財務官僚、賛同した審議会の委員たちは、はたしていまの教育の現場をどれくらい知っているのだろうか。たしかに子どもの数は減っているかもしれないが、教職員たちに課せられている仕事の量は昔とはとても比べものにならない。
やれ国際教育だキャリア教育だと学校に期待される「○○教育」は次々、増えるばかり、また事務作業も膨大になり、「机で書類を作ってばかり、子どもと触れ合う時間がない」と嘆く声も多い。さらに家庭や地域などの力が低下しつつあるいま、勉強だけではなく常識や伝統を教えたり、しつけを行ったりする役割までを学校が担わなければならなくなっている。その上、モンスターペアレントへの対応、人事評価制度の導入など、まさに息つく暇もない毎日で、現場の教職員たちの話を聞くたびに「これではうつ病になっても仕方ない」と思う。
さらに、この案には本質的な問題もある。いわゆる「政策効果」と考えられている「学力の向上」が、OECDの国際学力調査(PISA)と全国学力調査の結果のみ、と非常に単純化されていることだ。PISAの学力調査は「知識や経験をもとに、自らの将来の生活に関する課題を積極的に考え、知識や技能を活用する能力があるか」という、いわゆる“PISA型学力”ともいわれるある傾向を測るためのものであって、その結果をもって学力が上がった、下がったと判定することにはいろいろな批判もある。日本がPISAの順位を上げることを目指すのであれば、行うべきなのは「少人数学級の廃止」などではなくて、もっと違う指導法の取り入れなどであることは明らかだ。
いずれにしてもいまの状況の中で教職員を削減することになれば、おそらく現場ではうつ病や過労による疾患で倒れる人がいま以上に増加し、子どもや保護者にもさまざまな混乱、悪影響が及ぶことは必至だ。もちろん、ただ教員を増やし、学級の定員を減らせばよいというものではないが、今回の財務省案はあまりに無謀だ。これから文科省も反発するとは思うが、子どもたちのためにも費用対効果だけを問題にするような議論にはならないことを祈りたい。