私は細川氏、小泉氏のスピーチ後のパネルディスカッションで登壇したのだが、その前半、やや体調不良という細川氏は別室で視聴することとなり、壇上のパネラーは客席最前列の小泉氏と向かい合う形で座る、というおかしな構図ができ上がった。
とくに興味深かったのは、小泉氏と真正面で向き合う位置となったこの会議の賛同人のひとり、経済学者の金子勝氏が、「こうやって座るなら(かつてなら経済学者では)竹中平蔵のほうがふさわしかったはずなのに」と感慨深げに言ったことだ。これには小泉氏も思わず苦笑い。金子氏は、「本来、『自然を大切に』というのは保守の発想。電力を原発から自然エネルギーにシフトしたり、電力会社のあり方を変えたりするのはどちらかというと革新の発想。だから、脱原発で自然を守るという運動では、従来の保守と革新が手を組むことになる。これまでの右左、保革といった軸は、大震災を契機にすでに変化しつつあるのだ」といった話をした。
私自身、新自由主義的な経済政策や弱者が切り捨てられる規制緩和については、かつて小泉政権をかなり激しく批判した。実は、小泉政権の政治手法の中でも郵政民営化や当時の総選挙について批判的に論じる新書を書いたら、政権に近いところにいるとされたある人物から提訴されたこともあったくらいだ。裁判には何とか勝ったのだが、準備のために膨大な時間とエネルギーを使うことになり、担当編集者と「これも小泉さんや竹中さんのせいだ」とおおいにボヤいたこともあった。
パネルディスカッションで私は目の前の小泉氏に、「政権時代は批判もしました。でも、今回こうして小泉さんが原発ゼロという強い信念を持っているのを知り本当にうれしく、信頼していっしょに行動させてもらおうと思った」と伝えたが、まさに「事実は小説より奇なり」という心境であった。
ここに来て、こうして長く続いた右左、保革という旧態依然とした構図が崩れ、新しい動きが生まれようとしているのだとしたら、やや手前味噌になるが、この会議の設立は大きな意義を持つことだと思う。しかし、そのきっかけになったのは誰か聡明な人が気づいたからではなくて、あの福島第一原発の事故による衝撃であったというのは、何ともやりきれない話であるが。
ツイッターなどを見ていると、「格差拡大の張本人、小泉を信用してなるものか」「自民党ともウラでつながってのパフォーマンスだ」「脱原発の草の根運動も知らない著名人が今さら何をやろうというのか」といった厳しい批判の声もかなり上がっている。それは予想されたことではあるし、もちろんこれで本当に右派、左派の垣根が完全に消滅したとは思っていない。実際に昨年の記者会見でも、小泉氏は原発ゼロに向けての思いを語ったあとで、首相の靖国神社参拝については「おおいに行けばいい」と相変わらずの強硬姿勢を変えていなかった。その点においてまでも小泉氏と手を携えて、というわけには当然、いかない。
とはいえ、原発問題はそういったすべての違いをいったん棚上げにしても取り組まなければならない、喫緊の最重要課題であることは確かだ。価値観や政治的姿勢の違う人たちが集まって、慎重にしかし胸襟を開いてどれくらい「原発ゼロ・自然エネルギー推進」に取り組んでいけるか。またこの場でも報告したい。