こんな具合に日本化を恐れる風潮が欧米で広まっているのです。イギリスの「ザ・エコノミスト」誌の表紙に、和服姿のオバマ米大統領と、日本髪に和服着用のメルケル独首相の絵姿が掲載されもしました。日本化したアメリカとドイツ、というわけです。ご覧になった皆さんも多いでしょう。
かくして、いまや日本は「回避したいことリスト」の焦点となってしまった観ありです。これはなかなか情けないことです。ですが、端的にいって、筆者はこれをあまり気にする必要はないと思います。それどころか、日本化は、むしろあこがれをもって追いかけるべき理想ではないかと考えています。
ただし、この場合の日本化は、上記のようなイヤな日本化ではありません。筆者の頭に浮かぶ日本化とは、今の日本の経済社会的到達度という意味での日本化です。経済発展というものの歴史の中で、今、日本はどのようなポジションにつけるに至っているか。それを考えた時に出て来る解答。それが、筆者が考える日本化です。
そのような日本化の姿とは、要するにどのようなものでしょうか。それはすなわち、豊かさと成熟と洗練とゆとりのイメージです。端的にいえば、素敵な大人のイメージです。誰もが、「あんな大人になりたい」と思って羨望のまなざしを送る風情です。
日本は豊かな国です。貯蓄規模という意味でいえば、世界で最も豊かな国です。戦後、高度成長期を中心とした頑張りの成果です。そのおかげで、富の蓄積という意味では、世界でナンバーワンの国になりました。
頑張っていた頃の日本には、成長力はあるが、蓄えが無かった。戦後に焼け跡経済状態から出発したのですから、これは当たり前です。焼け跡経済を正常な経済に戻すべく、人々の成長パワーが炸裂(さくれつ)したのでした。
その成果として、今の日本は、成長力こそ衰えたが、蓄えのレベルは世界随一となったのです。成長力の衰えを、嘆く必要はありません。ここまで来てしまえば、成長力の低下は当然です。ここまで成熟度が高まった経済が、なおも3%とか4%の成長を実現しているとすれば、それは化け物です。化け物経済には、明らかに無理があります。高みに達すれば、巡航速度に落ち着くことが必要です。それでもなお、上昇一直線で突っ走っていれば、やがて大気圏を飛び出して燃え尽きてしまうでしょう。
蓄積された富を、いかに上手に利用するか。分かち合うか。いかに賢く、痛みの緩和と創造性の触発のために使っていくか。今はそれを考えるべき時です。若くて未熟だった時の夢ばかりを追っていては、明日に向かっておしゃれな大人の夢をみることは出来ません。
日本には、すべてのものが豊かにあります。生活の利便性の高さには、日本以外の場所に住んでいると、全く想像を絶するものがあります。新幹線があのように小刻みなペースで、秒単位の遅れを気にするような精緻さをもって運行されている。実に驚くべきことだと思います。
日本が抱える最大の問題は、自己イメージのゆがみだと思います。いつまでも「うぬぼれ鏡」の中の自分をみていたい。永遠の若さをみせてくれるうぬぼれ鏡です。
でも、「うぬぼれ鏡」に映る姿より、「真実鏡」に映る日本の姿の方がはるかに美しいと思います。そこにあるのは、酸いも甘いも噛み分けて、何があっても驚かない小粋な大人の姿です。人の痛みが分かる。人との分かち合いに喜びを感じる。風評に動じない。人の成長を羨まない。グローバル時代において、世のため人のために何が出来るか。それをいつも考えている。その気になれば、こんなイメージの日本化の姿がすぐそこにあります。その気になって目を凝らせば、それが本当の日本化の実態です。どうして、これを忌避する必要があるでしょう。
問題は、この大人の豊かさをしっかり分配出来ていないことです。この豊かさの中に貧困がある。これを克服できた時、日本化の素敵さが本当に輝くのだと思います。