「30年で2000万円」。この問題を巡って騒ぎが大きくなっていますね。当然のことだと思います。実に多くの意味で、政府与党の意識と感覚に深い疑念を抱かせる問題です。
まずは、整理しておきましょう。金融庁の諮問会議である金融審議会の市場ワーキング・グループが日本国民の老後資金について報告書を取りまとめました。その中で、夫が65歳以上、妻が60歳以上の夫婦の場合、年金収入では生活費が毎月5万円、30年間つまり夫婦ともに90歳台となるまでの期間では2000万円不足するという試算を示したのです。そして、この不足分を補うために個人年金を手当てしたり、あらかじめ資産運用を進めておくことを推奨しました。
公的年金だけでは、老後の生活安定が保障されない。そのように、公的年金の担い手である政府の機関が宣言したのです。
これは驚くべきことです。なぜなら、政府はかねて日本の年金制度は国民に「100年安心」を保障すると言ってきているのです。2004年に公的年金制度改革を行った際にこのスローガンを打ち出しました。このうたい文句と「30年で2000万円」の赤字転落宣言との関係は一体全体どうなっているのでしょうか。その後に、所管大臣である麻生太郎金融相は、この報告書が政府方針にそぐわず誤解を招くというので、その受け取りを拒否しました。この受け取り拒否によって、この報告書はもはや存在しなくなった。それが、政府与党の見解のようです。
さて、この実に奇怪なる事件に関して、我々はそのどの側面に最も腹を立てるべきでしょうか。あまりにも突っ込みどころがテンコ盛りであるだけに、下手をすれば、立腹度ランキングを見誤ってしまいそうです。最も本質的に腹を立てるべき点から意識がずれないようにしなければなりません。そこでまず、この問題に関して筆者が思い付く立腹ポイントを列記してみました。
A.「100年安心」だと言ったのに、実は「30年で2000万円足りない」だったとは、このうそつきどもめ。
B.自力で2000万円貯めろという国民に対する突き放し方は何事か。
C.2000万円をゲットするために資産運用に励めという。つまりは「貯蓄から投資へ」というわけで、「ハイリスク・ハイリターン」の危ない投資に手を出せと国民に言うのか。おまえら証券会社の回し者か。
D.超低金利の中で、だからこそ預金の元本を増やそうというので、人々は謹厳貯蓄に頑張っている。まさかの時の安心安全のために、現金もしっかりタンス預金しておこうと考えている。こんな切ない生活を送っている人々の前に、お気楽に2000万円などという高嶺(たかね)の花をぶら下げるな。
E.自分たちに意見するためにある審議会が出してきた報告書を、気に食わないからと言って受け取らず、なかったことにするとは、一体どういう了見か。何のための審議会制度だと心得ているのか。
ざっとこんなところかと思います。
いかがですか? 皆さんなら、これらの立腹ポイントをどのようにランク付けされますか? 筆者は、間違いなくEを1位にランキングします。これぞ強権。これぞ圧制。Aがばれたから、それをばらした文書を葬り去る。この発想のおぞましさに、彼らの正体が余すことなく現れた。そう確信するところです。