歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
源頼光・四天王(みなもとのらいこう・してんのう)
弓の名人と名高い武将と従臣、渡辺綱(わたなべのつな)・坂田金時(さかたのきんとき)・碓井貞光(うすいのさだみつ)・卜部季武(うらべのすえたけ)。大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)や葛城山の土蜘(つちぐも)退治の功績が有名。まさかりかついだ金太郎とは金時の幼き姿。綱は京都の一条戻橋で鬼の腕を切り取り(『戻橋』)、その後伯母に化けて腕を取り戻しに来た鬼と再び対決する(『茨木』)ほどのつわもの。
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葛の葉(くずのは)
殺されかけたところを救われる信太(しのだ)の森の白狐。葛の葉姫の姿を借り、命の恩人保名(やすな)と異類婚を遂げる。だが幸せも束の間、本物の姫の出現により、家族との別れの時がくる。口にくわえた筆で障子に和歌を書きつけるのが独特の趣向。この二人の間にできた人と狐のハーフは、今やブームの陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明(あべのせいめい)。『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』(1735年初演)。
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岩藤(いわふじ)
御家乗っ取りを企む恐いお局様。宿敵尾上の有能さが何かにつけ気にくわないので、いびり倒した末に草履打ちという屈辱を与えて自殺に追い込むが、結局尾上の下女お初から仇討ちをくらう。観客はこの悪女の最期を見届けてやっと溜飲を下げる。局の貫禄、悪女の凄みともに必要な憎まれ役なので立役向き。『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』(1783年初演)。
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玉手御前(たまてごぜん)
腰元から大名の後妻へ。継子(ままこ)俊徳丸へ横恋慕し、かなわぬと見るや毒を盛って業病にする狂乱ぶり。しかしこの邪恋、実は家督(かとく)を巡る継子同士の諍(いさか)い回避のため、わが身を犠牲にして打つ窮余の秘策であった。娘の乱行をこらえかねた父の一刃を浴び、真実を告白して終焉となる。三世中村梅玉の演技は伝説的。『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』(1835年頃初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】