カルスやオルガのようなメキシコシティの路上に暮らす子どもたちのことを、最もよく知る人は誰か? それは、毎日のように彼らのもとを訪ね、その信頼を勝ち取り、声に耳を傾ける「ストリートエデュケーター」だろう。私と篠田が子どもたちと出会うことができたのも、彼らのおかげだ。時代の移り変わりとともに、その活動スタイルは少しずつ変化してきているものの、この仕事に携わる者の役割の重要性は、変わらない。その重みを感じながら活動し続けるストリートエデュケーターたちの情熱と忍耐は、計り知れない。

色紙を使って、紙飛行機の作り方を教えるストリートエデュケーター(中央) 撮影:篠田有史
路上の子どもに寄り添う
1990年に初めて路上の子どもたちと出会った時から、私たちは、現地NGOのストリートエデュケーターの活動に学んで、取材を続けてきた。最初は、メキシコ連邦区政府(当時)と連携するストリートエデュケーターと路上を回ったが、その後まもなく、NGO「カサ・アリアンサ・メヒコ(Casa Alianza México)」のストリートエデュケーターの専門性の高い活動を知り、彼らに同行することになる。
「カサ・アリアンサ・メヒコ」は、ニューヨークに本部を置く国際NGO「カヴェナント・ハウス(Covenant House)」が、1988年にメキシコシティに開設した、路上の子どもたちを支えるための団体だ。カヴェナント・ハウスは、現在、中米とメキシコにおいて「カサ・アリアンサ(つながりの家、の意)」の名で活動している。
1990年代、「カサ・アリアンサ・メヒコ」には、路上生活から抜け出す決意をした子どもが最初に入る「避難所」や定住ホームなどの施設と、路上活動を行うチームがあった。チームには、常に2組前後のストリートエデュケーターがいた。「組」と表現するのは、彼らが常に男女一組で路上を回っていたからだ。路上には、少年もいれば少女もいるし、男性との方が話しやすい子もいれば、女性の方がいい子もいる。だから、ストリートエデュケーターのチームは、男女一組と決まっていたのだ。
「ストリートエデュケーター」は、直訳すれば「路上の教育者」という意味を持つが、彼らは路上の子どもたちに何かを教えるというよりも、むしろ「寄り添う者」だと、私は感じる。その役割は、多岐にわたる。
「カサ・アリアンサ・メヒコ」のストリートエデュケーターは、毎朝、事務所に集まり、まずその日に訪ねる場所を確認する。カバーしている地域は、基本的に、NGOの事務所と施設があるメキシコシティ中心部から、地下鉄やバスで30分程度で行ける範囲になっている。あまり遠いと、子どもたちが施設に関心を持っても、なかなか来られないからだ。
路上に出る際は、必ずリュックに色々な遊び道具と救急セットを入れていく。遊び道具は、子どもたちとのコミュニケーションに、救急セットは、簡単な怪我の手当に役立つ。子どもたちは劣悪な環境に暮らしているため、怪我や皮膚病、呼吸器系の病気が絶えない。医者の診察が必要な場合は、無料で診察を受けられる公立病院へ連れていくが、救急セットで対応できる程度の症状であれば、ストリートエデュケーターがその場で処置を行う。そうしてつながりを築いていく中で、子ども自身が路上での生活を見直し、施設に入るといった別の選択肢に目を向けるよう、導くのだ。

ストリートエデュケーターが、足に怪我をした少年の治療をする 撮影:篠田有史
「カサ・アリアンサ・メヒコ」で知り合ったストリートエデュケーターの中でも、特に印象に残っているのは、フアン・カルロス。長髪を後ろで束ね、いつも白やグレーのシンプルなTシャツとジーンズ姿の爽やかな青年だ。路上の少年少女たちは、彼のことを、そのファーストネームの一部「フアン」を英語にした「ジョン」という愛称で呼び、親しんでいた。姿を見るとすぐ「ジョン!」と声をかけてくる子どもたちに、ジョンは常に笑顔で応じた。彼は、子どもたちの人気者だった。彼が来てくれるのを待ち侘び、彼に会うために「避難所」へ来る子、それをきっかけに施設に入る子もいた。まさに、路上から別の人生への橋渡し役だった。
人生の案内人
「カサ・アリアンサ・メヒコ」のストリートエデュケーション活動は、メキシコシティの路上の子ども支援のあり方に、ひとつのモデルを示した。そこで学んだ者たちが、1993年、新たに設立したのが、NGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ(Pro Niños de La Calle)」、略して「プロ・ニーニョス」だ。
「プロ・ニーニョス」の特徴は、性別に関係なく路上の子ども全員を対象に活動する「カサ・アリアンサ・メヒコ」とは異なり、路上暮らしの子どもの多数派である「少年」に対象を絞ったこと。定住施設は持たず、ストリートエデュケーターによる路上活動と路上から子どもが毎日通える「デイセンター」の運営を軸にしたこと。それらの活動を通して、少年一人ひとりが、路上とは異なる人生を選択していけるように導いている点だ。特に、ストリートエデュケーターは、路上から異なる人生を考える段階(デイセンターで過ごす時間)へと、子どもを導く役目を担っていた。