
ストリートエデュケーター(左)と一緒に、道端でぬり絵をする少年 撮影:篠田有史
私がよく知る、「プロ・ニーニョス」のベテラン・ストリートエデュケーターだったラウルは、巧みな会話と、サーカス・エンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」が社会貢献事業として行っているサーカス教室のワークショップで覚えた芸を生かし、あっという間に路上の子どもたちを惹きつける術を身につけていた。路上活動のパートナーと街中を歩いて観察し、声をかけようと決めた子どもたちのもとを訪ねると、「ディアブロ(悪魔)」と呼ばれるコマを操りながら、好奇心から近づいてくる少年に、「キミもやってみる?」と、声をかける。2本のスティックを左右の手に1本ずつ持ち、間に渡された糸の上で、ふたつのお椀の底をつないだような形のゴム製のコマを転がし、回す。スティックを上下させながら巧みに操れば、コマはお椀のつなぎ目部分を軸に勢いよく回りながら、糸の上を滑ったり高く投げ上げられて戻ってきたり。サーカスの芸が繰り広げられる。
コマから目が離せなくなった少年のもとへ、またほかの少年が寄ってきて、一緒に芸を見守る。そんな少年たちに、ラウルが、「キミたちにも教えてあげるよ。ほら、これを持ってみて」と、もうひとつ用意されたディアブロを手渡す。そこからは、少年たちとラウルのミニサーカス教室だ。
夢中になってコマを動かそうとする少年を手助けしながら、ラウルとパートナーは、何気ない会話を続け、自分たちストリートエデュケーターの仕事について伝えて、少年の名前や年齢、住んでいる所などを聞き出していく。そんな遊びと会話の時間を20〜30分で終えると、翌日にまた会う約束をして、次の場所へと移動する。
徒歩と地下鉄やバスで、毎日、2〜3カ所をまわり、その場の雰囲気や少年たちの年齢などによってやることを変えながら、子どもたちとの関係性を築いていく。それを繰り返すなかで、彼らを「プロ・ニーニョス」のデイセンターへ誘うのが、狙いだ。

デイセンターで遊ぶ子どもたち。横になった仲間の体の間を、注意深く飛んでいくことで、互いの信頼関係を築く。 撮影:篠田有史
デイセンターは、定住型の施設とは異なり、あくまでも少年たちが日中、路上以外の場所で子どもらしい時間を過ごす機会を提供することで、自ら路上とは異なる生活を手に入れたいと思い始めるよう導くのを、目的としている。少年たちは、朝、センターに来るとまずシャワーを浴びて着替え、汚れた服を自分で洗濯し、朝食をとり、スポーツやゲームを楽しむ。昼食後は、絵を描いたり、工作をしたり、映画を観たりと、文化活動を楽しむ。そうして夕方4時半には、また路上へ帰っていく。その繰り返しの中で、少年たちはデイセンターのスタッフやほかの子たちと話をしたり、物事に取り組んだりするうちに、もう路上にはもどりたくない、と思い始めるのだ。
デイセンターのコーディネーターは、こう言う。
「大切なのは、子どもたちを大人の都合で守るのではなく、彼らが自らの意志と力でよりよい人生を選択していけるよう、手助けすること。私たち大人は彼らの心を支え、自主性を引き出し、その成長を導く、人生の案内人であるべきなんだ」
路上人生を歌う
「プロ・ニーニョス」が、少年のみを対象に活動する中、少女のための路上活動とデイセンターを運営する団体があった。オルガの「お母さん」、モニカさんが率いるNGOだ。そこでストリートエデュケーターを務めていたグスターボは、いつもギターを抱えて通りに出向き、そこにいる子どもや若者たちとロックな歌をうたう、ちょっと変わったエデュケーターだ。彼がギターを持って現れると、支援対象ではない路上生活者も皆、集まってきて、彼の周りに座る。そして、「グス(グスターボの愛称)、あの曲を弾いてくれよ」と、リクエスト。グスターボがギターを弾き始めると、歌名人も音痴も、誰もが揃って合唱を始める。何曲か歌う合間に、個人的な相談事がある少女が彼に話しかけ、その後で一緒にデイセンターへ向かうこともある。

グスターボ(中央奥、眼鏡の人)が、仲間と2人で、ギター片手に歌い始めると、路上の子どもや若者が集まってきた 撮影:篠田有史