店は、JR三鷹駅から徒歩6分のところにある、しゃれたコインランドリーに併設されたスペース。ガラス張りの入り口を入ると、「まちの台所」と称する飲食スペース(カフェ)とキッチンがある。そこでは、地域で料理を提供したいという人が、日替わりで出店している。その奥に、自然環境に負荷をかけない調味料や野菜、穀類、麺類、飲料、日用品などを量り売りする店がある。ゴミを出さないために、客は自ら容器を持ってきて(あるいは、店に用意されている容器を購入して)、必要な分量だけ買う。また、地産地消を目指すために、できるかぎり地元産の商品を扱い、「まちの台所」でもそれを使った料理を提供する。
メンバー最年少の国際基督教大学(三鷹市)4年生、岡田光さん(24)は、卒業論文を書く傍ら、週に1日、「野の」で働く。持続可能な食と農業システムに関心があり、大学でも「地産地消プロジェクト」サークルで活動してきた。近郊農家が生産する農産物を学生食堂に取り入れたり、学生寮の寮生向けに販売したりするなかで、地域で同じような関心を持つ「野の」のメンバーと出会う。
「最初は、市内に新設されたシェアスペースで量り売りの店を開くことを計画したんです。でも、メンバーそれぞれのやりたいことや、やり方のアイディアの共有などが不十分なまま走り始めたために、目的が不明瞭になってしまい、計画を練り直すことに。ただ、“誰かが代表になるのではなく、全員が経営に関わり、出資して、協同労働でやりたいね”ということは、初めから皆が共有している考えでした」
メンバーは、ワーカーズコープ連合会のイベントや相談会、『協同ではたらくガイドブック』(協同総合研究所)などを通して学び、労働者協同組合への移行を念頭に、合同会社を設立した。
「会社と言っても、メンバー全員が出資し、一人一票の権利を持って経営に携わっている点は、労働者協同組合と同じです」
と、岡田さん。「市民が立ち上げる、草の根運動的なところがいい」と、微笑む。
皆が意見を出し合い、共に商品の選択や仕入れ、販売などの経験を積んで、事業を軌道に乗せるべく、奮闘中だ。
「野の」の設立趣意書に示された活動方針には、別の職場や職を持っていても地元(地域)で仕事をしてみたいという人が働き、仕事を通じて世の中を変えていきたいと書かれている。メンバーが互いに尊重し合い、働き方や働く場を築く過程を大切にしたい、とも。また、地域につながりを取り戻し、暮らしを自分たちの手でつくりあげることを掲げ、自然に助け合いができる地域づくりを志している。
「労働者協同組合が進める“協同労働”は、働くことの延長線上に暮らしがある、と感じられるところが、魅力です」
岡田さんはそう話す。
働くということが、単に金銭収入をもたらすだけでなく、私たちの暮らしを真に豊かにすることにつながる。労協法の施行をきっかけに、そうした働き方への関心が社会へ広がりつつある。
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個人事業者や勤労者などが4人以上集まり、組合員となって、それぞれ資本や労働力を持ち寄り、事業を起こして経営する協同組合。労働者協同組合と異なり、出資のみの参加も可能。