労協法が成立した2020年12月以降、ワーカーズコープ連合会には、およそ300件に上る労働者協同組合の設立や協同労働に関する問い合わせや相談が来ているという。
「私は25年間、ワーカーズコープ連合会で働いていますが、労協法の成立以前は、労働者協同組合をつくりたいという話にほとんど出会ったことがありませんでした。景色が一変しました!」
と、高成田さん。法律の成立と施行は、それだけ大きな意味を持つ。相良さんもこう話す。
「問い合わせをしてくる人たちの多くは、法人化の前に、“協同労働をやりたい”と言われます。労協法には“協同労働”という言葉は出てこないのですが、法律ができたことにより、メディアなどで労働者協同組合の働き方から生まれた協同労働という言葉と理念が広まり、既存の労働のあり方とは異なるその働き方への共感が広がっていると感じます」
ワーカーズコープ連合会が母体となって1991年に設立された研究機関、一般社団法人協同総合研究所事務局長の相良孝雄さん。撮影:篠田有史
それを受けて、ワーカーズコープ連合会では今、協同労働に共感する団体・個人とともに「協同労働推進ネットワーク」を各地で設立し、地域で協同労働を推進、支援するためのつながりを広げている。
労働者協同組合の設立の相談を寄せる人たちには、いろいろなタイプがあるという。
まず、既存のワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブがそうであるように、すでにNPO法人や企業組合(*)などの別の法人格で組織をつくって事業を行っている人々。実際に協同で民主的な運営を実践している、もしくは目指しているのに、それが組織形態に反映されていない状態から、本来あるべき姿になろうと、労働者協同組合としての登記を考えているケースだ。
また、自治会や障がい者・児の保護者グループ、ボランティアグループ、友人・隣人グループなど、地域にある組織やグループが、自分たちの取り組みを事業として展開するために、労働者協同組合の設立を考えるケースもある。
沖縄県の宮古島の北端で活動する狩俣(かりまた)自治会は、2021年から労働者協同組合の設立を念頭に動きはじめた。同自治会では、少子高齢化が進むなかで、これまでに休園していた幼稚園の再開やその給食づくりの支援など、様々な事業を行ってきた。そうした経済活動を任意団体である自治会が担う場合、もろもろの契約は個人名義となり、働く人たちもボランティアか個人請負にならざるを得ない。そこで、労働者協同組合として事業を展開できるようにすることで、島に新たな雇用を生み出すことを考えたのだ。
その設立をサポートしてきたワーカーズコープ連合会センター事業団九州事業本部・沖縄開発室の元事務局長(現在は関西事業本部本部長)、高橋弘幸さん(33)はこう語る。
「中心となるメンバーの間に対等な関係が築かれている狩俣自治会の活動は、元々“協同労働”と言えるものだったので、労働者協同組合への移行はスムーズにいくと思います。法人化後は労働者協同組合の事業として、地元産の魚を買い取ってつくる惣菜を住民が運営する共同売店で販売したり、高齢者への配食や地域や行政から請け負う清掃業務を行ったりする予定です」
そして11月7日、設立総会が開かれ、労働者協同組合「かりまた共働組合」はまもなく誕生する。
伴走しながらサポートする
労働者協同組合の設立は、必ずしもうまくいくことばかりではない。高橋さんは、この2年間、九州・沖縄地域で労働者協同組合の立ち上げをサポートするなかで、いくつかの壁にぶつかってきた。特に、「最低賃金以上の収入が得られる事業」の創出と「事業運営に組合員全員の意見をうまく反映する方法」をどうつくっていくかが、難しいが重要な点だと感じているという。
「収入に関しては、地域のニーズにも左右されるので、組合員ができるだけ地域コミュニティに関心を持てるようにすることを心がけています。意見反映の方法に関しては、私たちワーカーズコープ連合会の活動の先行事例を参考にして、時には組合活動の現場を見てもらい、アドバイスしています。例えば、運営会議では、できるだけ多数決ではなく全会一致を目指すための議論を重ねることや、日常的に全員が顔を合わせる時間帯には短時間のミーティングを行うこと、なかなか意見が言えない人がいる場合には事前にアンケートをとることなど。さらには、個別面談をして、一人ひとりの考えを聞き取るようにしていることも紹介しています」
労働者協同組合は、株式会社やNPO法人、一般社団法人などとは異なり、「実際に汗を流して働く人(労働者組合員)が中心となる組織形態」である分、そこに参加する人全員が協同労働による事業運営をしっかりとつかめるように、細かいサポートをすることが重要だと、高橋さんは言う。
「特にベースとなる組織がなく一から事業をつくる場合は、簡単にはいきませんから、いきなり法人格を取るのではなく、任意団体として試行錯誤する期間をつくるのも大切だと思います。働く者同士が話し合い、試行錯誤するなかで、協同労働が生まれてきて、その結果、労働者協同組合として本格的に始動していく。そういうプロセスが大事なのではないでしょうか」
高橋さんが行っているような「伴走型」のサポート活動を、ワーカーズコープ連合会では推進している。労働者協同組合設立を目指す人たちを、全国にあるワーカーズコープ連合会の加盟組織とつなぎ、実践現場との関わりを通じて、労働者協同組合の理念と運営を学んでもらうのだ。
全国からの問い合わせを受ける前出の高成田さんは、この「伴走型」の意義を強調する。
「ワーカーズコープ連合会グループでは、労働者協同組合の作り方や実践のガイドブックもつくりました。また、厚労省のホームページの書類をダウンロードし、こうやって定款を作成し、こういうふうに総会を開いて、と設立手続きの話をすることもあります。でもそれ以上に、40年にわたって全国で行われてきた協同労働のノウハウを共有し、一緒に考えていく“伴走”が、設立の際、一番の力になります」
働くことの延長線上に、暮らし
(*)
個人事業者や勤労者などが4人以上集まり、組合員となって、それぞれ資本や労働力を持ち寄り、事業を起こして経営する協同組合。労働者協同組合と異なり、出資のみの参加も可能。
