メディアの注目
夢のある話が少ない路上生活。そんななかで、この頃、よく知る少年たちが夢中になっていたことがある。メディア出演だ。フォックス(元)大統領が、「ストリートチルドレン支援」を掲げたことで、メディアの関心が一気に高まり、多くの新聞やテレビ局がそれまで放置していた問題を取り上げはじめた。それに対して、路上の友人たちは、無関心だった世間がにわかに自分たちに注目しはじめ、独自の主張ができることをポジティブに捉えているようだった。新聞記事に写真が出ると、それを自慢げに見せてくれた。フォックスが資金援助してできたパン工房では、その開店に合わせてSPとともにフォックス本人が現れ、そこでパン作りを習うという子どもや若者が、笑顔でテレビのインタビューを受けていた。その工房、実際には長くは続かなかったのだが。

フォックス大統領(2000〜06年)は、自らが資金提供を約束してできたパン工房のオープニングに現れ、できあがったパンを子どもたちと共に試食した。(2001年)撮影:篠田有史
そんななか、あるテレビレポートでインタビューを受け、その姿が観る者に衝撃を与えた映像が今もYouTubeで見られる少年がいる。レポートのタイトルは、「ねずみキッズ」。9分ちょっとのレポートの冒頭で3分ほど話す、アクティーボの影響で目もうつろな少年は、当時9歳。カメラの前で、ねぐらにしている地下の配線溝に梯子(はしご)を伝って降りていき、レポーターにこう語る。
「夜一番辛いのは、友達もいない、何もない状態で、1人ここにいることだよ」
レポーターが、家族のことを覚えているかと尋ねると頷き、「ママのことを思い出す」と言う。「ママのところへ戻ろうとしたことは?」という問いには、あると答え、「でもママはそれを望まなかったの?」と聞かれると、望まなかったと首を横に振る。その間、カメラをじっと見つめ続けるその眼差しが、観ている私たちの胸を締めつける。
少年がインタビューに答える配線溝のなかは、ゴミや汚物や古着に埋め尽くされ、それらとアクティーボの臭いが入り混じって、とても人間が暮らせる環境ではない。レポーターは思わず、「よくこんなひどい場所で寝られるね!」と言うが、少年はこう応じる。
「もう慣れてる。もっと小さい時は、ゴミ捨て場で新聞紙にくるまって寝てたし。こういう生活に慣れてるんだ」
アクティーボをやっていない「シラフ」の時は愛らしい笑みを浮かべる、体の小さい彼は、路上の仲間たちから「ラティータ(小ねずみ)」と呼ばれていた。それが忘れもしない、わが友人、カルロスだ。