外へ出てタクシーを拾う。ここは俺が払います、と告げ、少し先の繁華街を目指す。青森の夜、知らないオヤジと壮年男の旅の始まりだ。タクシーはグンと飛ばしたが、すぐに目的地に着いた。ドアを開け、外に出る。目の前の建物を指し、ここここ、とビルの2階へと進む。重い扉を開けて大将は、おう、と言って中に入っていく。スナックのようなバーのような、キャバクラまではいかない、リラックスした小綺麗な店だった。カウンターの一番奥に座り、辺りを見回す。カラオケをしているおっちゃん。ちょっと小金持ちそうな男がカウンターの女性を口説いているのか、世間話をしているのか。大将は店の女の人に何か耳打ちしている。とりあえずビールを頼んで大将と乾杯。店の女の人に、この人東京から来た人、競輪やりに来たんだって、と話している。そうなんだ、なんかお兄さん誰かに似てるよね、誰だっけ、あ、キングヌーのボーカル、井口だ、と。似てるって言われない? いや、言われたことないっすね、と返す。大将とはだいぶ店で話したので、何を話していいやら。しばらくぼーっとしてると、おい前野、3千円で飲み放題で話つけたんだからしっかり飲めよ、と肘打ちされる。大将が急に怖くなってちょっと面食らった。前野さん、から、前ちゃん、そして前野……。スピード感がありすぎる。すいません、と言いながらも少し辟易する。それが顔に出てしまったのか、大将が話を変えた。競輪選手が集まる店があるんだよ。行くか? と。マジっすか、と急にテンションが上がる。大将も気を良くしたのか、よしっ、行ってみるか、と店を後にすることに。
そこからタクシーではなく、歩いて行ったような記憶がある。無事店にはたどり着いたが、看板の明かりは消えていた。大将が店に電話する。つながらない。残念、と思っていると大将がグイッと扉を押した。動いた。中にママがいて、大将は、あれいるじゃん、と。ママも、もう店閉めたけど〇〇君が来てくれたから少しだけやってるのよ、と。中にはママと競輪選手が1人いた。さっきまで競輪場で走っていた選手だ。覚えている。この人競輪しに東京から来たんだって、と大将がまた説明してくれる。へえすごいね、とママ。ほら〇〇君だよ、一緒に写真撮ってもらいなよ、と言われるがまま、ツーショットを撮ってもらう。さらに大将も入って3人でパシャ。今写真を見返すと皆マスクをしている。大将は水玉模様の、布のマスクだ。競輪選手とはうまく話せなかったが、一夜の奥深さを知った。
店を出て、大将と少し歩いて、じゃあここで、と別れた。なんだかすごい夜だったような、何も起こらなかったような、ふわふわした感じで夜道を歩いた。
ホテルまでの帰り道、無性にラーメンが食べたくなり、目星をつけてた店に寄ろうとしたが、深夜2時、もう閉店していた。少し歩いて、別のラーメン屋を発見。九州ラーメンか、と思ったが、ラーメンが食べたかったので、店に入った。青森で九州、まあいいか。硬麺、さっと食べて、水をたくさん飲んで、宿に戻った。
翌朝、青森は雨。けっこう降っていたが、茶店を探した。すぐに見つかった。フォーション。
モーニングを頼む。フレンチトースト。素晴らしい。カウンターのママを見るとうたた寝している。外は雨。これは歌になる。ノートにポツポツ書いていく。こういう時は何を書いているのだろう。何かを書くというよりは、自分が、あ、これは歌になる、と思った風景の中に、同化していくように、書くという行為で、歌になりにいっているのかもしれない。歌になりたいのか。まあそんなことはどうだっていい。字数がオーバーだ。まだ青森の話は続く。ここから偶然見つけた喫茶マロンという店に入り、10年以上着たジョンレノンのTシャツを捨て、空港で意地の青森ラーメンを食べ、夜の滑走路、雨のフライトへ。もう次の街を書け、と言われるかもしれないのでせめて写真だけでも。