宇都宮へ。
初めてのライブ。
新幹線を使うとあっという間に着いてしまうので、普通列車で行こうと思ったが、旅情が出るので、新幹線で向かうことにした。
北の方へ向かう新幹線の中で読める雑誌「トランヴェール」が好きだ。駅弁のコラムや、小説家のエッセイ、知らない地域の風習や街について。これを読むと旅情が少し出る。
新幹線の中では缶コーヒーとベルギーワッフルをよく食べる。コーヒーはタリーズのキリマンジャロ。サイズもちょうど良いし、香料が入っていない。あるいはドトールとニューデイズのコラボのコーヒー。しかしすべてのものが高くなった。ワッフルとコーヒーと新聞で600円くらい。新聞は日経を買うことが多い。あまり落ち込まなくて済むからか。ワッフル気分でない時は、ブラックサンダーを買う。
宇都宮は近い。東京から日帰りも可能だ。だから今までライブをしてこなかったのかもしれない。しかし今回、ぜひ、と強くお誘いいただき、伺うことが決まった。新しくできた路面電車を見られるのも楽しみだ。
駅に着くと、主催の方が車で迎えに来てくれていた。会場までは10分ほどか。今回はバーを用意してくれた。バーで歌うなんてとてもありがたい。少し雨が降っていた。駅からは新しい路面電車「ライトレール」が見えた。車体は黄色と黒のカラーリング。まるで蜂のようだ。これが駅と工業団地を結ぶ。今この時代に、鉄道が縮小していく時代に、新しいレールを街中に作った宇都宮。それだけで、心意気を感じた。
ピカピカの宇都宮ライトレール
会場に着くとマスターがいた。少し強面で、そっけない感じがしておののいたが、お酒飲みますか、といきなり聞いてくれたので、心は和らいだ。マスターが買い出しに出たので、機材をいじり軽くリハ。大丈夫だろう。いったんホテルへ移動しチェックイン。体はイマイチだったので、ベッドに横になり、TVをつけるとバスケットボールの試合がやっていた。地元のTV局っぽいけど、NHKだったかもしれない。宇都宮のチームが出ていた。大きな大会の準決勝。なんとなくぼんやり、宇都宮ってそういえば強いバスケチームあったかも、と思い出した。そのチームの試合だった。会場も盛り上がってる。スポーツに力を入れてる市なのかもしれない。
時間になったので着替えて靴を履き、出かけた。会場に着くとお客さんがたくさん。ありがたい。自分は集客力がないので、主催の方が集めてくれた。栃木のとある街が出てくる歌を作ってはいるが、実際に栃木で歌うのは初めてのことだった。お客さんはピザやポテトや、フードを食べながらライブを見てくれて、和やかに、時に熱く、ライブの時間は過ぎ去った。
終わってマスターとカウンターで少し話す。どうぞ、とお酒を出してくれて。まだ緊張はしていたが、何かの拍子で競馬の話になり、一気に砕けた。オジュウチョウサンって知ってますか、と聞かれたので、もちろんです、と答える。オジュウチョウサンは障害競走(ジャンプして生垣を飛び越えたりするレース)で無類の強さを誇り、障害競走馬ながら、平地競走の最高峰、有馬記念にまで出た馬だ。話を聞くと、マスターのお兄さんは装蹄師(そうていし)で、なんとオジュウの蹄鉄を作っていたというではないか。驚いた。普段から大きめのリアクションをする方だが、この時はカウンターの椅子から少し飛び跳ねた。これ見てください、と言われ案内された方に行くと、ライブ中はまったく気づかなかったが、オジュウの蹄鉄が、壁に飾ってあった。お兄さんは他にも、エフフォーリアという強い馬の蹄鉄も手掛けていたという。なんでライブ前に言ってくれないんですか、競馬の歌3曲もあるんですよ、と言ったが、それにはマスターも苦笑いで。
オジュウチョウサンの蹄鉄。上は横山武史騎手のサインか
装蹄師というのは、競走馬のひづめに蹄鉄を打ち付ける仕事だ。これがうまくハマらないと馬は痛いし、走りにくい。スポーツ新聞を読んでいても、ひづめが、蹄鉄が、とよく出てくる。バーのマスターのお兄さんが装蹄師。なんとも格好良い兄弟だ。今度は必ず、競馬の曲をやろう、そしてこの壁の蹄鉄について、MCで触れたい。すっかりご馳走になってしまい、店を後にした。
別の場所で行われていた打ち上げに少し交ぜてもらい、宿へ戻った。まだ夜は艶やかな芳香を残していたが、次の日は予定があった。