床屋が多いのは、軍人さんは定期的に髪を切らなければいけないので、需要があるとのこと。本当に多かった。その代わり喫茶店はなかった。喫茶店がないと旅をまとめることが出来ない。歩いて歩いて、それでも見つからない。諦めかけていたが「何か匂うなこの裏が」で裏路地に入ると、まさかの喫茶店だ。ガッツポーズをした。ほれみろ! 誰もいないのに、そう呟いた。店に入ると女性客だけで、少し気まずい。ワッフルが有名なようで、それを目的に来てる方もいるのか。もちろん自分もワッフルとコーヒーを頼む。そして運ばれてきたワッフルに胸が一杯になる。オーノー! そんな気分だった。大袈裟でなく涙が出そうになった。なんて自分は恵まれているのだろう。コーヒーが飲みたい、と言ったらコーヒー屋が現れて、焼きたてのワッフルに生クリーム、ブルーベリー。その甘さ、美味さったらなかった。ノートに旅をまとめようとするも、うまくまとめられない。ただ「生きているよろこび」みたいなことは書いた気がする。俺は小さい小さい人間だ、ワッフルとコーヒーで人生が満たされた気持ちになる。たしかそんなことを。
店を後にし、終バスまであと2時間くらいか。せっかくならこの街で飲んで帰りたい。通りへ戻ると、提灯が灯っている店がある。外で女性がタバコを吸っていたか。電話をしていたか。すいませんやっていますか、と聞くと、どうぞどうぞ、と明るく店内へ案内してくれた。ここでしっぽり飲んで帰ろう。
カウンターには先客が2人。常連客っぽい。自分もカウンターに座る。ん〜地元の方? ちがうよね? とママさん。あ、そこのチビチリガマを見にきたものです。県外からです。だよね〜、なんかちがうなあと思って。チビチリガマって行ったことあるかなあ、地元だけど、行ったことないかも。小学生の時に1回だけ行ったかな。おばあちゃんが「すごく怖いところだから」って小さい時話してくれたの覚えてる。だからすごーく怖いイメージ。そうママさんが話してくれた。それからは隣の常連客の方と何を話したか。いい感じで酔っ払った。常連客の1人は、たぶんママさんのことが好きなんだろうと思った。ママはたしかに可愛かった。
壁を見ると、浜田省吾のレコードやポスター、CDが飾られている。浜省好きなんですか、と聞くと、かなりのファンらしく、歴も長いとのこと。遠くまでコンサートにも行っているらしい。聴きます? と言うので、ぜひ流してください、と伝えるとCDを流してくれた。歌詞カードを開きながら聴く。沁みてくる。浜省はずっとかっこいい、とママさんは言っていた。変わらない、と。熱く語るママさんにグッとくる。こんな店が地元にあったら通ってしまうだろう、そんな愛くるしさがあった。しかし切り上げなければ。終バスが迫っていた。勘定をすませ外に出ると、店の外まで見送りに出てくれた。手を振ってくれた。淡い恋心が、読谷の夜に浮かんだ。
ほろ酔いで那覇行きの終バスに乗り込んだ。この日の総括はできなかった。車窓に映る夜景を眺めた。大きなハンバーガーショップ。基地のフェンス。勢いよく走るバス。俺は何しに来たんだろうな。バスは50分ほどで那覇バスターミナルに着いた。沖縄に移住した小学生の時の友達に急に会いたくなった。前もって約束するのが苦手なので、いきなり電話をかけてみた。何年ぶりだろう。出てくれた。声を聞くのは10年ぶりか。明日仕事が早いので街に出るのは難しいという。昔ほんとによく遊んだ。小学生の頃。毎日公園で何かしらの遊びをしていた。ああいう時間って取り戻せるはずなんだよな。友人はそろそろ沖縄から関東に戻ろうかと思ってる、と話していた。沖縄でやっていくのは難しい、と。背が高くて勉強ができて、正義感の強い男だった。自分はチビでちょこちょこしていただけだった。謝恩会で一緒に、チャゲアスを歌った。そんなことを宿へ戻る道すがら、思い出していた。