だらだらとツアーをやっている。
はたから見たら、そう思われるだろう。自分でもそう思う側面はある。実際のんびりツアーをやっているのだ。
1本1本のライブは、それは真剣なものだが、昨年の夏に出したアルバムのツアーも、もう8ヵ月目。本数は少ないものの、そろそろ1年が経とうとしている。
はじめからそういうものを狙っていた訳ではなかったけど、うちの街にもぜひ、という感じで、誘ってくれたり、自分から押しかけたり、でじわじわとライブが組まれていった。
昨年の12月に、久しぶりに金沢へ出かけた。「もっきりや」というハコで、11年ぶりに伺うことになった。富山競輪をくっつけようと思ったが、問い合わせると冬季は開催していなかった。
前に行った時は北陸新幹線がまだ開通していなかった気がする。「はくたか」というのは特急の名前で、それに乗って行ったような気がしたからだ。車内で係の人が回ってアンケートを取っていた。特急を使う頻度や、これからできる新幹線のことについてなど。アンケート用紙に記入し、記念にボールペンをもらった記憶がある。
金沢は遠かった。しかし新幹線ができて、グッと近くなった。今なら東京から2時間半くらいか。前は新幹線で越後湯沢まで行き、そこから特急「はくたか」に乗り換え、合計4時間くらいはかかっていたのではないか。縁がなくなかなか行けなかったが、金沢にどうして来てくれないのか、とライブのお客さんからけっこう言われ、次のツアーでは必ず行こうと決めていた。
時期は特に決めていなかったが、年内に行きたかった。お店に連絡すると、12月のここしか空いていない、ということで12月中旬の日曜日に決まった。単発で行って帰ってかなと思っていたが、ちょうど長野県の渋温泉で毎年行われているイベントから誘いが入り、そこに出てから金沢という行程を組めることになった。今まで何度も呼んでもらってる温泉地でのイベントだ。
川沿いに源泉が湧き出る
渋温泉でのイベント「音泉温楽」は、金具屋という旅館の大広間で行われる。長野電鉄の湯田中という駅で降りて車ですぐ、歩いても行ける距離にある。新幹線の長野駅から送迎してもらったこともあるが、今回は「調べたら実は飯山って駅の方が近かったんです」と言われ、そこから送迎してもらうことになった。10年以上そのイベントはやっているが、北陸新幹線のその新駅と渋温泉は、今まであまり結びつきがなかったのかもしれない。金沢で久しぶりに会った知人もライブ後、「渋温泉からどうやって金沢来たんですか」と言っていたくらいだ。
たしかに飯山駅の方が近かった。長野駅からの所要時間の半分くらいか。渋温泉に来ると、懐かしい気持ちになる。いつもは土曜日の遅い時間での出演か、2日目の日曜日の最後というのが定番だったが、今回は日曜に金沢が決まっていたため、土曜の早めの時間に出演させてもらった。夕方ライブをし、19時には体が空いたので、街を少し散策した。今まではこの時間がなかったのだ。
行きたい店はなんとなく決まっていた。アンクルトム。看板が素敵なバーだ。ようやくこの店でゆっくり飲める。雪の街のバー。冬の温泉街のバー。扉を開けると、まだ店は開いたばかりで誰もいなかった。メガネが一瞬でくもり、ダウンや上着を脱いだ。カウンターに腰掛けるとマスターが来て「何にしますか」と聞いた。ジンがいいなと思っていた。ジントニックを注文した。いや炭酸で割ってもらったか。ゆっくりライブの疲れを流した。マスターともゆっくりお話をした。温泉街で50年、バーを続けてこられた。とても楽しかった、と。「でもあともう2、3年かな」とも言っていた。「お客さんがあんまり来ないし、みんな家で飲むようになったからね」。悲壮感がある訳ではなく、とても静かに、話をしてくれた。外は雪が降っていた。何杯か飲み、とても楽しかったですと伝えると、僕もとても楽しかったと返してくれた。店のマスターというのはなんて尊い仕事なのだろうと思った。店を出ると雪が深くなっていた。
この街で50年
翌朝、早めに宿を出て、飯山駅に向かった。茶店を探そうとしたが荷物も邪魔だったので、駅のカフェで外を眺めながらコーヒーを飲んだ。雪をかぶった山が近くに見えた。