タクシーに戻り、次は墓へ。こういう道だったっけかなと思いながら、車はぐんぐん進む。そして少し勾配がある道に、細い道に入ったところで速度を落とし、ぐいっと左に曲がった。ここだと思いますよ、と着いた場所はまったく見覚えがなかった。だけどここしかない。ここなのだろう。運転手さんにお礼を言い、タクシーは切り返して去っていった。まだ陽が落ちるまで時間はあったが、少し日陰になった部分もあり、ひんやりとした風も吹き始めた。とても田舎で、山があり、熊が出そうだ、と直感で思った。早く墓を探そう、そう思ったがなかなか見つからない。母に電話しても良かったがそれはなんとなく野暮ったく感じられた。20分ほど経ち、ようやく墓を発見。ちょうど西陽が墓の苗字に当たっていた。花が供えられていて、叔母が最近来たのだろうかと思った。持ってきていた線香を焚こうとマッチを擦ったが、なかなか火がつかない。何度目かでようやく火がつき、線香に移す。自分のルーツのことはよく知らなかったので、曽祖父母、さらにその前の代、前の代、と墓に刻まれた名前をメモ帳に書き写していく。叔父も祖父も早死だな、それに比べて祖母、ひいばあさんの長生きといったら……。なるほどねえ、と呟いて墓を後にした。
タクシーを呼んでも良かったが、歩いて駅の方まで戻ることにした。飲み屋がある場所はだいたい地図で調べてきてはいた。山に囲まれた、美しい風景がある場所だなと思った。母からはとにかく田舎で早く村から出たかった、と小さい頃から聞かされていたが、訪れるのと住むのとでは違うのだろうか。祖父が酒乱で大変だった、普段は優しいけど酔うとひどい、とにかく大変だった。そんなことも聞かされていたから、この町に怖いイメージがあったけど、目の前に広がる美しい風景に怖さは感じなかった。
30分ほど歩いて、ようやく商店街らしき場所に辿り着いた。しかしやっている店はまばらで、商店街というよりは、商店がポツポツある通り、という感じだった。昔は店が全部開いていて、賑わったんだろうなということは想像できた。街灯が綺麗で、それがまたさみしさを誘う。やっている飲み屋を探して歩いた。酒が飲みたいし、話が聞きたい。この町は自分のルーツでもあるのだ。1軒の飲み屋から注文を通す声が聞こえた。元気な女性の声だった。ここにしよう。暖簾をくぐると、忙しそうに女性が飲み物を運んでいた。いらっしゃい。
つづく