新幹線で郡山へ。車内で読んだ本は荒川洋治の文庫本。タイトルは忘れてしまった。すごいなこの人、と唸りながらコーヒーをすすり、朝早かったので途中眠り、郡山へはすぐに着いた。
新幹線を降り、磐越西線という路線に乗り換える。そういえばギターケースが壊れたので新しいケースで旅に出た。ケースといってもリュックのように背中に背負える「ギグバッグ」と呼ばれるものなのだろうか。急いでいたのでネットで買った。これが以前使っていたものよりひと回り大きく、さらに重たい。失敗した。電車の移動には不向き。さあ降りよう、となった時に、先端がドアの上にバコンとぶつかる。高さもあるのだ。だからしゃがみながら降りる。非常に間抜けで、その度に恥ずかしいなと思う。ただ以前のものより頑丈なので、そこは良い。それから、今後旅が長くなる(ライブが多くなる)ことを予想して、一度綺麗にギターを磨いた。汚れを落とすレモンの汁みたいなものと、コーティング剤と。これをキメの細かいマイクロファイバーの布で薄く伸ばして磨く。ボロボロのギターだけど、隅々まで掃除すると、音が良くなった。そればかりでなく、弦が切れにくくなった。もっと早くこういうことをしておけば良かった、と思った。
磐越西線で会津若松まで約1時間。そこからライブ会場のある喜多方駅までは30分ほど。だがライブは次の日だ。福島に前乗りしたのは、祖父母の墓参りをするため。いや、叔父も数年前に亡くなったので、叔父の墓参りもあった。会津若松から喜多方へ行く列車ではなく、只見線という別の路線に乗った。
4人がけの席に座ると、目の前に2人組の男性が座った。急いで乗り換えてきたようで、1人は汗をかいていた。恰幅のいい男性で、すいませんねえと言いながら前に座った。もう1人の眼鏡の痩せた男性は落ち着いていた。列車が走り始めると、眼鏡の男性が外を眺めながら、あれが磐梯山だよ、と言った。晴れてるから今日はよく見えるね、と付け加えた。恰幅のいい男性は汗を拭きながら、綺麗ですねえ、と返した。2人は50代くらいだろうか。自分より少し上に見えた。とても楽しそうで、どういう関係なのだろうとぼんやり考えたが、旅の仲間だろう、ということで勝手にオチをつけた。目的の駅に近づいて、荷棚からギターをよいしょと下ろして背負うと、恰幅のいい男性が、海外からの帰りですか、と尋ねてきた。はて? と思ったが、海外からの帰りに見えたのだろう。そういうことにしておけば良かったが、明日喜多方でライブがあるんです、と答えた。にこっと笑って男性が、そうですか、と言ったところで列車は駅に着いた。
ボタンを押さないとドアは開かない。ドクっとボタンを押して外へ出た。ここが祖父母の故郷、母の故郷か。スーツケースをガラガラ転がしギターを背負ってたどり着いた。宿は安いビジネスホテルを取っていたが、駅から離れているので、少し作戦会議が必要だ。とりあえず駅前にあった食堂に入った。
喜多方といえばラーメンが有名らしいが、この隣町でも喜多方ラーメンだ。ラーメンを注文した。出来上がるのを待っている間、何人かお客さんが入ってきた。昼食の時間はとうに過ぎていたが、この日は3連休の初日。ゆっくり起きて街へ、という人も多かったのかもしれない。ビシッと髪を整えた男性が入ってきて、なんとなく叔父のことを思い出した。祖父のことを思い出した。大叔父も、髪をビシッとしていたイメージがある。ラーメンが運ばれてきた。すする。うまい。これは隠れ名店なのではないだろうか、そう思った。汁を飲み干し、駅へ戻る。
タクシー会社の電話番号はメモしてきていた。宿も墓も歩ける距離ではなかったので、タクシーを呼んだ。5分もしないうちにタクシーは来た。まずホテルへ寄って、そのままここのお墓に行ってください、と地図を見せると、ああいいですよ〜とやわらかく返してくれる。少し懐かしい気持ちになる。このイントネーション。叔父や大叔父を思い出す。タクシーは走り始め、ちらほらある酒蔵がどういう酒蔵か、簡単に説明してくれる。宿に着き、チェックインの時間になっていなかったが、いいですよ、とチェックインさせてくれる。フロントの女性が少しアンニュイで、目の端に夜が見えた。こういう時の気分はどう説明したらよいのだろう。むらさき色の予感がする、そんな感じだろうか。