何レースか当てて、気持ちも財布も少しふくらんで、最終レースは多めにかけた。しかし車券は外れた。最後興奮してしまい、取り乱した。賭場で最後まで淡々と過ごすことは、むずかしい。もう日は暮れかけていて、重たい荷物をまたかついで、バス停へと向かった。
宿は三条の方に取っていた。宿の最寄りの駅まで行くシャトルバスがあったので、それに乗った。バスの中は静かだった。外には田園風景が広がっていた。途中プシューッとドアが開いて何人かが降りた。また走り始めた。なかなか目的の駅へ着かなかった。何台かバスが停まっていたので、もしかしたら間違えて乗ったのかもしれないと思った。また途中でバスが止まり、何人かが降りた。プリントアウトしていた宿周辺の地図を見ると、今まさに宿の周辺を走ってる気がした。ああこの辺で降りれたら、と思ったらプシューッとドアが開いた。ラッキー。なんと宿の前でバスが止まってくれたのだ。降りますーと言って荷物をかついでバスから降りた。目の前はビジネスホテルのだだっ広い駐車場だった。
チェックインを済ませ、荷物を部屋に入れる。古いビジネスホテル、心地よい。部屋の椅子も渋くて格好良い。フロントで周辺地図をもらい、街を歩く。雨が降っていたので戻って傘も借りた。
どこかで飯でも食べよう。夜の繁華街をくまなく歩き、何軒か目星をつける。しかし入ろうと思うと満席になっていたり、タイミングが合わない。何が食べたいかよりも、店の雰囲気。門構え。暖簾。建物の佇まい。肉を食べたい、という気分ではなかったが、1軒のホルモンの店に決めた。入るとカウンター席にひとり常連のおじさんが飲んでいた。宿でもらってきた新潟日報を読みながら焼き鳥をつまみ、瓶ビールを飲む。おじさんと喋りたかったが、おじさんはお店の人と話したいことがあるようだった。こういう時は静かに飲むに限る。新聞をぺらぺらめくり、翌日のライブのことを考える。深酒はやめておこう。瓶ビール2本で止め、店を後にした。
程よい繁華街で、夜の店、飲み屋、スナックも多かった。気になっていたカフェ&パブに入り、ジンのカクテルを何杯か飲み、あまりにうまいカラオケのおじさんの歌を2、3曲聴いて、店を後にした。もういいかなと思ったが、小腹が空いたのでラーメンを。それから細い路地を歩いて宿に戻ろうと思ったら、何やらオーラを放っている看板が目にとまった。「友達」。これはなんとなく、行かなければいけないような気がした。友達。1人で旅をしていると、この言葉が、妙に染み入る。扉を開けると、ママが1人、いた。
瓶ビールを頼んで、グラスに注ぐ。私もいいですか、ママが言う。自分は気が利かないなと思った。もちろんです、と言うとママがもう1本瓶ビールを出してきた。乾杯。もう夜は更けていた。お店のこと、これまでのこと、ぽつぽつとママは話してくれた。人生だな。大きな大きな人生だな。小さな店の中に、大きな人生がある。その灯に暖められて、小さな希望が胸に宿った。明日はいいライブになるだろう。お礼を言って「友達」を後にした。