新幹線となった「はくたか」で金沢を目指した。途中、トンネルを抜けると、一気に天気が悪くなった。雨が降って、先行き不安な感じがした。金沢駅に着いても、雨が降っていた。ギターのストラップを宿に忘れてきたので、駅ビルの楽器屋で求めた。同じものの色違いがあって助かった。肩のところの引っ掛かり具合が、ストラップでけっこう変わるので。駅からバスに乗りホテルの近くまで。チェックインを済ませて部屋に入ると、いよいよ天気は大荒れに。窓の外の看板を大粒の雹(ひょう)みたいなものがバシバシ叩く。夕方前なのに外は真っ暗。体調は優れないし、それでもライブは休めない。いや、金沢まで来て休みたくない。荷物をまとめ、意を決して外に出た。幸い、雹は止んでいた。びしょびしょの道をギター担いで荷物転がして店まで。久しぶりのもっきりや。マスターが相変わらず怖い。いや、怖いというのとは違う。店の雰囲気が厳かで、凛としていて、緊張感があるのだ。浅川マキのもっきりやライブのポスターも一役買って、時代の深みが。自分なんかがやっていいのかな、という気持ちも隠せず、リハ。しかしライブ本番は体調悪くとも、突き抜ける瞬間あり、怖いはずのマスターが一番「おー」とか「へー」とか声を出してくれていた。終わって急いで片付け、ようやく一息。マスターにおすすめの店を聞くと、いい飲み屋を紹介してくれた。さっと電話で予約も入れてくれて、「飲みますか」と言ってカウンターでグラスにビールを注いでくれた。ありがたくいただき、店を後にした。宿に戻り部屋に荷物を置き、街へ繰り出した。体調はイマイチでも、夜の街は特別なのだ。おすすめの店に行き、美味しいものをいただき、少しフラフラして宿に戻り、夜3時過ぎ、眠った。
もっきりや。金沢で50年
翌日も天気はぐずついたが、歩いた。偶然たどり着いた「にし茶屋街」は、漢方薬局の方が教えてくれた。買った板藍根(ばんらんこう)も効いた。北陸鉄道に少し乗ったり、新幹線が敦賀まで伸びたことでIR(いしかわ鉄道)になった旧JRの鈍行に乗ったり。ここ数年で金沢、北陸が変わってきたのだなということが風景から感じられた。路面の線路の上空を、どデカい新幹線のコンクリート橋が一直線に伸びていた。
移動し疲れたので、最後宿に荷物を取りに戻る前にコーヒーをと思いぐるぐるビルの周りを歩いていたら、裏道に、雨の中ぽっと咲く花のように、コーヒー屋の看板があった。思わずガッツポーズし、店内へ。
旅の最後に入った喫茶店。コップの色、灰皿の色、草花の色、完璧な配色
店の名前は、寒い冬のある街にぴったりの、春を予感させる名前だった。のんびりツアーをやっているはずなのに、いつも急ぎ足なのはどうしてなのだろう。カウンターでおじさんが雑誌を読んでいた。ストーブがついていた。雨の音がうすく聞こえていた。